深読み、Radiohead通信|歌詞和訳と曲の解釈

Radioheadの歌詞を和訳してます。トムの心境やバンドのエピソードも交えながら「こう聴くとめちゃ深くなるよ」といった独自解釈を添えてます。

【歌詞和訳】Everything in Its Right Place / Radiohead - 新たなロック史の幕開け

『OK Computer』の商業的大成功後、3年の沈黙を破った『Kid A』のオープニングを飾る1曲。
当時「商業的自殺」とまで言われたそのアルバムの制作は過酷を極めた。

【歌詞】

(Kid A, kid A)
Everything
Everything
Everything
Everything

In its right place
In its right place
In its right place
In its right place

Yesterday I woke up sucking on a lemon
Yesterday I woke up sucking on a lemon
Yesterday I woke up sucking on a lemon
Yesterday I woke up sucking on a lemon

Everything
Everything
Everything

In its right place
In its right place
In its right place
Right place

There are two colors in my head
There are two colors in my head
What is that you tried to say
What is was you tried to say

Tried to say
Tried to say
Tried to say
Tried to say

Everything
Everything
Everything

 

【日本語訳】

すべてのもの...
すべてのもの...
すべてのものはあるべき場所に...

すべてのものはあるべき場所に...

昨日、ぼくはレモンをしゃぶりながら目を覚ました...

すべてのもの...
すべてのもの...
すべてのものはあるべき場所に...

すべてのものはあるべき場所に...

ぼくの頭の中には2つの色がある...
それがあなたの言おうとしていたこと...

あなたが言おうとしていた...
あなたが言おうとしていた...

すべてのもの...
すべてのもの...

 

【解説】 

『Kid A』の制作中、バンドは混乱していた。控えめに言っても”ひどく”混乱していた。これからどこへ向かえばいいのか、答えが全く見えなかったのだ。

ご存知の通り『Creep』のスマッシュヒット後、時の人となった彼らを待ち受けていたのは、世界各国への果てしない行脚だった。『The Bends』以降も続いた、その望んでいない「厚遇」は『OK Computer』で「世界が望まない方向に加速していく疎外感」として表現された。

そしてその『OK Computer』が喝采されたいま、この音楽的な娼婦活動は続行させられることになった。まるで先の見えない階段を昇り続けるように...。

 

全てのものから解放されたい

彼らはどこへも進めなくなっていた。何を歌えばいいのか。何を表現すればいいのか。

レコーディング中のバンド仲にも亀裂が走った。半ば鬱状態のトムは、元来の気難しい性格も手伝い、誰彼構わず当たり散らすようになったのだ。彼の扱いに、バンドメンバーは苦心したに違いない。世紀のロックバンドは20世紀最高と評されるアルバムを最後に、解散していてもおかしくはなかったのだ。

そんな中、誰ともなく提案があった。「声をめちゃくちゃにしてみよう」「ギターって使う意味ある?」「8ビートなんてクソくらえ」。おそらく、ナイジェルかエドあたりがこのようなことを言い出したのではないだろうか。それが良かった。

トムは『Everything in Its Right Place』を書き上げた。そして、この曲が全ての始まりになった

・・・いや。正確に言うのであれば、この曲は「書く」という行為から生まれたものではない。楽器の音色や、ラジオから流れる音、つぶやき、歌声などを一度録音し、ラップトップ上で再解釈・再構築した後に”偶然”作り出されたものであった。元々自分の声に自信がなかったトムは、この作業に嬉々として取り組んだはずだ。そうして、次々と楽曲が生み出されていった。雪解けが訪れたのだ。

 

Kid Aは「解放」をテーマとした叙情的アルバム

『Kid A』というアルバムは、トムにとって「解放」を告げる作品だった。既成概念からの解放。そして過去の自分からの解放。

本人が「ずっとラジオを聞いていた」と語るように、このアルバムの楽曲のいくつかは、ラジオから流れる言葉を断片的につないだ、取り留めのない歌詞となっている。(だから歌詞の細かい部分には意味がないものが多分に含まれている)

この『Everything in Its Right Place』もその1つだ。これは叙事的な詩ではなく、叙情的に選ばれた言葉の羅列なのだ。先に紡がれた音があり、そこにぴたりとはまった言葉があった。(あるいはたまたま切り貼りされた言葉がつながった)

 

全てはあるべき場所にある。それを許すか?抗うか?

トムはこの曲を通して、いま自分の置かれている状況を客観視することに成功したのだ。どんな状況に陥ろうと、どんなに世界は狂って見えようと、「すべてのものは、あるべき場所にある」と思うことにしたのである。(キリスト教の「運命」や、仏教の「諦め」に通じるものがある)

全てはなるべくしてなった事象なのである。誰を非難しても始まらないのだ。ここに至るまでの長く苦しい経験が『レモン』であり、『目を覚ます』までずっとそれをしゃぶり続けていたのだ。

ただ、彼は自分を聖者のように扱ってはいない。「全ては正しいのだから身を任せれば良い」と考える一方で、「だがどうしてもそれらを許せない」と考えてしまう一面がある。それを彼は『頭の中には2つの色がある』と表現している。

『それがあなたが言おうとしていたこと』の『あなた』は、それを指摘した人物のことだ。それは身近な誰かなのかもしれないし、聖書の一節なのかもしれない。(人間は生れながら善と悪の二面性がある、と言ったのはイエス・キリストだっただろうか?)

 

新しい壁の存在。正しいのに受け入れがたいもの。

もし、全てのものが正しい場所にあるとしても、その事象をどう捉えるかは、やはり人間に託されている。彼らは良識のある僧侶のように「あるがままでいいのです」と両手を合わせることをしない。

今まで闘っていた相手は分かりやすかった。間違っているものは正せばいいのだから。だからこそ、この「正しいのに受け入れがたい」相手にどう向き合うかは非常に難しい。(戦争はなるべくして起こるし、格差は生まれるべくして生まれる)

彼らは今までの世界を許すことで、さらに大きな壁に向き合うことになったのだ。そして彼らは『Amniesiac』以降、 より政治的な楽曲を発表していくことになる...。

 

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