長らく待望されていた名曲のスタジオバージョン。
当時録音されていたものの、20年を経て『OK Computer OKNOTOK 1997 2017』に収録された。
収録されなかった理由は「アルバムが売れすぎるから」とのこと(エド・オブライエン談)
【歌詞】
This is the place
Sit down, you’re safe now
You’ve been stuck in a lift
We’ve been trying to reach you, Thom
This is the place
It won’t hurt ever again
The smell of air conditioning
The fish are belly up
Empty all your pockets
Because it’s time to come home
This is the place
Remember me? I’m the face you always see
You’ve been stuck in a lift
In the belly of a whale at the bottom of the ocean
The smell of air conditioning
The fish are belly up
Empty all your pockets
Because it’s time to come home
The smell of air conditioning
The fish are belly up
Ah, let it go
Today is the first day
Of the rest of your days
So lighten up, squirt
【日本語訳】
ここがあなたの場所よ
さあ、座って。あなたはもう安全よ
あなたはずっとエレベーターに閉じ込められていたの
私たちは何度もあなたに手を伸ばそうとしていたのよ...トム
ここはあなたの場所よ
もう決して傷つくことはないのよ
エアコンのにおい
魚は腹を上にして(死んでいる)(※文末参照)
さあ、ポケットの中身を全部出して
もうお家に帰る時間よ
ここがあなたの場所
私を覚えている?あなたがいつも見ている顔よ
あなたはずっとエレベーターに閉じ込められていたの
海の底に沈むクジラのお腹の中に
エアコンのにおい
魚は腹を上にして(死んでいる)
さあ、ポケットの中身を全部出して
もうお家に帰る時間よ
エアコンのにおい
魚は腹を上にして(死んでいる)
さあ、行きましょう
今日が新しい人生の最初の日
気を楽にしてね。坊や。
【解説】
Liftは現代社会での生活の象徴
「Lift」は英語(イギリス語)で「エレベーター」のことです。
トムはこの曲で、エレベーターを窮屈で苦しいものの象徴として描いています。まるで「海の底に沈むクジラのお腹の中(※)」のようだと。
(※童話『ピノキオ』のゼペットじいさんが閉じ込められたくだりからの引用)
エレベーターは一度閉じ込められてしまうと自力では決して出ることができません。「海の底のクジラのお腹の中」と同様、完全に遮断された空間になります。この自分ではどうしようもない閉塞感を、現代社会での生活になぞらえたのです。
トムはもちろんここから抜け出したいと感じています。どうすれば良いでしょうか?
彼はこう考えました。きっと僕を見てくれてる人がいて、いつか救い出してくれるに違いないと。『Lift』は、誰かが自分を救いに来てくれたという曲なのです。
主人公を救い出す別世界の存在
この存在はトムを苦しみから救い出してくれます。そして子供の頭を撫でるように語りかけます。「ここはあなたの場所」「もう安全よ」と。
でもこれは誰なんでしょう?母親や彼女(または妻)なら「私を覚えている?あなたがいつも見ている顔よ」なんて言いません。
この存在は、遠い過去に一度会ったことがあり、いつもそばにいるが認識をしていないもの・・・これはきっと「神」なのでしょう(あるいは「天使」かもしれません)。
魂はどこかからやってきて、現世での生活を経てまたどこかに戻っていく。「もうお家に帰る時間よ」というのは、家はあくまで向こう側の世界で、こんなくだらない現世じゃないんだという宗教観を表現しています。「今日が新しい人生の最初の日」というのも同様です。
さて、ここでお気付きになった方もいるかもしれません。そうです、同時期に収録された『No Suprises』と『Lift』はちょうどコインの裏表のような関係になっています。この現世からの脱出を、主観と客観の両面で描いたものなのです。きっと「美しい庭」が「ここがあなたの場所」なのでしょう。ただし『No Suprises』ではトムの人間としての感情に重きを置き、そこにすら救いがないことを描いています。
『結局は救いがないのだけど、救われたい・・本当に苦しいんだ』
トムは、そんな孤独に打ち勝つためにこの曲を作ったのでしょう。
それは同じ時代を生きる私たちにも、希望と勇気を与えてくれます。
【※訳者注】
「The fish are velly up(魚は腹を上にして(死んでいる))」の部分は、とても解釈が分かれるところだと思います。そもそも「A face you barely loved(あまり好きになれなかった顔)」という歌詞ではないかとも言われています。
確かに我々日本人からすると「なんでいきなり魚が?」という感覚を持ちます。ただこの曲が持つキリスト教的な趣きから、私は「魚」は何かの暗喩なのかなと解釈しています。最も有名な「魚」の暗喩としては、「キリスト信者」や「キリスト自身」を示すものがあります(参考:イクトゥス - Wikipedia)。
トムの宗教観からすると「神は死んでしまって」とか「人々は信仰を失っていて」という表現をしてもおかしくはありません。(もちろん欧米人としてはかなり過激ではありますが)
ただ、いずれにしてもこの部分は歌のテーマにはそれほど影響がないと考えているため、ここでは意味を持たせずに訳すことにしました。(少なくとも希望を持つような言葉ではないはずです。ここで「負の世界」を表現していないと、「そこから抜け出すのよ」とはならないですもんね。雰囲気で「魚が死んでる生臭さ」でもいいと思います。)