深読み、Radiohead通信|歌詞和訳と曲の解釈

Radioheadの歌詞を和訳してます。トムの心境やバンドのエピソードも交えながら「こう聴くとめちゃ深くなるよ」といった独自解釈を添えてます。

【歌詞和訳】Creep - Radiohead / 伝説のシングル「クリープ」とバンドの歴史解説

Radiohead初期のヒットシングル。ロック好きがRadioheadといえばこの曲とオススメする曲。
穏やかなメロディは一転、サビ前のギターノイズで一変する。トムのシンプルな恋心を歌に載せた、極めて珍しい1曲。1枚目のアルバム『Pablo Honey』に収録。

 

この記事では「Creep」の歌詞の解説とヒットの裏側を、20年のレディオヘッドの歴史を合わせて紹介しています。レディオヘッドの苦難と栄光の歴史が伝われば幸いです。

 

【日本語訳】

君がそばにいても
ぼくは目を合わせられなかった
君は天使みたいで
君の肌を見てると涙が出てくるんだ

君は羽みたいに美しい世界を舞う
ぼくも特別になれたら...
君は本当に特別なんだ...

でもぼくは嫌なやつだ
ぼくはおかしなやつだから
ぼくは一体どうしたらいい?
僕の居場所はここじゃない...

この心が傷ついても構わない
ぼくはそれを制御したいんだ
ぼくは完璧な体が欲しい
ぼくは完璧な魂が欲しい

君に気付いて欲しいんだ
ぼくがそばにいないときも
君が本当に特別なんだって
ぼくもそうありたいんだって

でもぼくは嫌なやつだ
ぼくはおかしなやつだから
ねえ ぼくは一体どうしたらいい?
僕の居場所はここじゃない...

彼女は、またどこかに行ってしまう
ああ 彼女は行ってしまう...
行って 行って 行って...!

君を幸せにするものなら何でも
君が望むものなら何でも...
君は本当に特別なんだ...
ぼくもそうありたいんだ...

でもぼくは嫌なやつだ
ぼくはおかしなやつだから
ぼくは一体どうしたらいい?
僕の居場所はここじゃない...
僕の居場所はここじゃない...

 

【歌詞】

When you were here before
Couldn't look you in the eye
You're just like an angel
Your skin makes me cry

You float like a feather
In a beautiful world
And I wish I was special
You're so fuckin' special

But I'm a creep, I'm a weirdo.
What the hell am I doing here?
I don't belong here.

I don't care if it hurts
I want to have control
I want a perfect body
I want a perfect soul

I want you to notice
When I'm not around
You're so fuckin' special
I wish I was special

But I'm a creep, I'm a weirdo.
What the hell am I doing here?
I don't belong here.

She's running out again,
She's running out
She's run run run run

Whatever makes you happy
Whatever you want
You're so fuckin' special
I wish I was special

But I'm a creep, I'm a weirdo,
What the hell am I doing here?
I don't belong here.
I don't belong here.

 

【解説】 

「Creep」は「変なやつ」という意味の単語

「Creep(クリープ)」とは「変なやつ」や「キモいやつ」という意味です。後に21世紀を代表する稀代のシンガーソングライター、トム・ヨークは、自身を「I'm a creep」と揶揄する楽曲でデビューしたのです。

 

デビュー当時のレディオヘッドは無名の存在だった

レディオヘッドは、バンドメンバーが高校生の時に組まれました。(30年経った今も、メンバーは当時のまま活動しています)。そしてトムの大学卒業に合わせて、プロの世界に足を踏み入れます。当時はOn A Friday(オン・ア・フライデー)というバンド名でした。名前の由来は、毎週金曜日にバンド練習をしていたから。なんともシニカルですよね。「Drill(ドリル)」というEPでメジャーデビューします。地元ではそこそこ評判になったようですが、その後の反響はありませんでした。

当時のイギリスはブリットポップ全盛期だったので、その波に乗る道もあったはずです。しかし、様々なジャンルの音楽と文学を愛する彼らは、BlurやOasisのような若者の主張をするようなバンドになりたいとは考えませんでした。もっとクリエイティブで、エッジの効いた楽曲を作るグループを目指していたのです。

しかし、実績のない若いバンドにそんなわがままは許されません。スタジオでは、毎度プロデューサーから早く次の曲を持ってくるように言われます。そして仕方なく披露したのがこの「Creep」という楽曲でした。プロデューサーはその完成度に驚きましたが、トムがバツが悪そうに「スコット・ウォーカーの曲」と言って演奏を始めたので、本当にカバーソングと思ったそうです。しかして「Creep」という楽曲は、レディオヘッドのニューシングルとして世に出ることになります。

 

トム・ヨークの生い立ちと劣等感

Radioheadのフロントマンであり、ボーカルのトム・ヨークは劣等感の塊のような幼少期を送っていました。生まれながら閉じていた左目に対する度重なる手術の後遺症で、常に片目を半分つむったままだったことも影響したのでしょう。そんな容姿と色白で細い彼は「サンショウウオ」と揶揄されたりもしました。

トム・ヨークは、そんなクラスに一人はいる、気難しく見た目もパッとしない根暗男子だったのです。ただ音楽に対する情熱だけはありました。Pixiesが大好きで、R.E.M.のマイケル・スタイプを尊敬していて、Talking Headsをこよなく愛するサブカル男子。

そんな男の子の恋は、ラブレターではなく、音楽として表現されることになりました。

でもぼくは嫌なやつだ
ぼくはおかしなやつだから
ぼくは一体どうしたらいい?

この美しく、それでいて聴いているこちらが泣きたくなるような悲しい歌詞は、一人の多感な男の子の純粋な恋心だったのです。

 

当時のUKリスナーの反応はイマイチ

もちろんこんなネガティブなラブソングなんて当時は存在しなかったので、英国でも少しばかり評判を呼びました。「上流階級の子も愛では悩むんだね!」という揶揄とともに。リリース年の英国チャートは75位でした。控えめに言っても、全然売れてません。それもそのはず。当時のイギリスでは、ロックは労働階級のものでした。こんな根暗インテリのポエムなんて誰も興味なかったのです。

しかし何の因果でしょうか。「Creep」はラジオをきっかけに遠く離れた、イスラエルでヒットしてしまいます。まるで運命がRadioheadを世に送り出そうとするみたいに。その流れがアメリカに伝わり、そして本国イギリスへの逆輸入という形で大ヒットにつながりました。

 

予期せぬヒットとバンドメンバーの困惑

彼らは戸惑ったことでしょう。もといトムは嬉しさと恥ずかしさの間で揺れ動いたはずです。だって考えてもみてください。いくらメロディが素晴らしいといっても、歌詞は「♪ 俺はキモい奴ぅ...でも君は特別ぅ...」ですよ。そんな恥ずかしい歌をうたいたくてミュージシャンになったわけじゃないんです。

なのにどの音楽イベントに行っても、単独ライブを開いても、みんな「あ!サビを叫ぶ変な人だ!Creep歌って〜!」って言ってくるんです。しかもお目当ての「Creep」を披露したら、そのあとどんな曲を演奏しても、みんな会場を後にしちゃうんです。これがどれだけつらいことか...。

(まさに What the hell am I doing here...? 状態ですね...)

 

3年の月日を経て、彼らは2枚目のアルバム『The Bends』をリリースしました。このアルバムは、彼らの暗澹たる日々への怒りがそのまま収められています。

 


ただこれでも「Creep」の呪いは解かれませんでした。「The Bends」を歌うトム・ヨークには、本当に悲壮感が漂っています。(上の記事でライブ映像を観ることができます)

それは、暗いトンネルの中をただひたすらに歩き続ける毎日でした。

 

90年代の最高傑作「Ok Computer」の誕生

1997年。Radioheadは3枚目のアルバム『Ok Computer』を発表します。この作品はギターロックを完成させたとまで評され、またたく間に世界的大ヒットになります。「Creep」の発表から5年後、ようやく彼らは「Creep」の一発屋というレッテルを外すことができたのです。そして『Ok Computer』発表の翌年(1998年)、彼らはライブのセットリストからそっと「Creep」を外しました。5年間に及ぶ呪いからようやく解放されたのです。その後10年以上、彼らが「Creep」を演奏することはありませんでした。

(レディオヘッドの全アルバムはこちらの記事で解説しています。ぜひご覧ください)

 

 

トム・ヨークと「Creep」との和解

そして時は流れ、2010年代、Radioheadは再び「Creep」を演奏し始めました。一部では、ただのファンサービスと捉えられていますが、私はこの20年で、トムの心境に変化があったのだと考えています。

「Kid A」以降、自分に自信を取り戻した彼は、この曲の「You」を違う存在へと置き換えて歌っているのではと思うのです。それは「Lift」に登場する天使であったり、「Reckoner」の創造主であったりする、絶対的な存在に対する憧憬であり、この世界に囚われた小さな人間による懇願なのです。

昨今のライブ映像を見ると、確かに遠くの、それでいて確実な存在を見据えているように見えてくるのです。

参考) Radiohead - Creep (Live at NOS Alive Festival 2016)

 

彼女はまたどこかに行ってしまう
ああ、彼女は行ってしまう・・行って、行って、行って・・!

君を幸せにするものなら何でも・・
君が望むものなら何でも・・
君は本当に特別なんだ・・
ぼくもそうありたいんだ・・

 

この曲は20年の時を経て、ようやくあるべき場所にたどり着いたのです。
まさにEverything in Its Right Placeといったところでしょうか!

 

あわせて読むとさらに深読み

 

 

参考リンク

苦悩に染められたレディオヘッドの「Creep」は、ファンにも彼らにとってもスペシャルな1曲に - TAP the POP|ミュージックソムリエ|TAP the POP