Radioheadのデビューシングル。ロック好きがRadioheadといえばこの曲とオススメする曲。
穏やかなメロディは一転、サビ前のギターノイズで一変する。トムのシンプルな恋心を歌に載せた、極めて珍しい1曲。
「Creep」は「キモい奴」という意味
「Creep(クリープ)」とは「キモい奴」という意味です。後に21世紀を代表する稀代のシンガーソングライター、トム・ヨークは、自身を「Creep」と揶揄する楽曲でデビューしたわけです。
この記事では「Creep」の歌詞の意味とヒットの裏側を、その後のレディオヘッドの顛末と合わせて紹介しています。レディオヘッドの本当の姿が伝われば幸いです。
【日本語訳】
君がそばにいても
ぼくは目を合わせられなかった
君は天使みたいで
君の肌を見てると涙が出てくるんだ
君は羽みたいに美しい世界を舞う
ぼくも特別になれたら...
君は本当に特別なんだ...
でもぼくは嫌なやつだ
ぼくはおかしなやつだから
ぼくは一体どうしたらいい?
僕の居場所はここじゃない...
この心が傷ついても構わない
ぼくはそれを制御したいんだ
ぼくは完璧な体が欲しい
ぼくは完璧な魂が欲しい
君に気付いて欲しいんだ
ぼくがそばにいないときも
君が本当に特別なんだって
ぼくもそうありたいんだって
でもぼくは嫌なやつだ
ぼくはおかしなやつだから
ねえ ぼくは一体どうしたらいい?
僕の居場所はここじゃない...
彼女は、またどこかに行ってしまう
ああ 彼女は行ってしまう...
行って 行って 行って...!
君を幸せにするものなら何でも
君が望むものなら何でも...
君は本当に特別なんだ...
ぼくもそうありたいんだ...
でもぼくは嫌なやつだ
ぼくはおかしなやつだから
ぼくは一体どうしたらいい?
僕の居場所はここじゃない...
僕の居場所はここじゃない...
【歌詞】
When you were here before
Couldn't look you in the eye
You're just like an angel
Your skin makes me cry
You float like a feather
In a beautiful world
And I wish I was special
You're so fuckin' special
But I'm a creep, I'm a weirdo.
What the hell am I doing here?
I don't belong here.
I don't care if it hurts
I want to have control
I want a perfect body
I want a perfect soul
I want you to notice
When I'm not around
You're so fuckin' special
I wish I was special
But I'm a creep, I'm a weirdo.
What the hell am I doing here?
I don't belong here.
She's running out again,
She's running out
She's run run run run
Whatever makes you happy
Whatever you want
You're so fuckin' special
I wish I was special
But I'm a creep, I'm a weirdo,
What the hell am I doing here?
I don't belong here.
I don't belong here.
【解説】
いかがでしょう?
歌詞の印象は、「暗い!」に尽きますよね。
好きな娘がいるのに直接告白することができず、ただ悶々と深夜にノートに書き連ねたポエムのよう。というか「Creep」という楽曲は、実際そのように書かれたのだと思われます。だから、まさかそんな楽曲がヒットするなんて、彼ら自身にも思いもよらなかったはずです。
伝説の始まり
レディオヘッドは、高校の仲間同士のバンドです(30年経った今も、メンバーは当時のまま活動しています)。そしてトムの大学卒業に合わせて、プロの世界に足を踏み入れます。当時はOn A Friday(オン・ア・フライデー)というバンド名でした。(名前の由来は、毎週金曜日にバンド練習をしていたから。なんともシニカルですよね。)
そして「Drill(ドリル)」というEPでデビューします。地元ではそこそこ評判になったようですが、その後の反響はありませんでした。
彼らは今後の方向性を模索しました。もともと頭の良い彼らは、ただのバンドをしたいとは思っていませんでした。もっとクリエイティブで、エッジの効いた楽曲を作るグループを目指していました。しかし、実績のない若いバンドにそんなわがままは許されません。スタジオでは、毎度プロデューサーから早く次の曲を持ってくるように言われます。そして仕方なく披露したのが、この「Creep」でした。プロデューサーはその完成度に驚きましたが、トムがバツが悪そうに「スコット・ウォーカーの曲」と言って演奏を始めたので、本当にただのカバーソングと思ったそうです。しかして「Creep」という楽曲は、レディオヘッドのデビューシングルとして世に出ることになります。
根暗男子のポエム
トム・ヨークは劣等感の塊のような幼少期を送っていました。生まれながら閉じていた左目に対する度重なる手術の後遺症で、常に片目を半分つむったままだったことも影響したのでしょう。そんな容姿と色白で細い彼は「サンショウウオ」と揶揄されたりもしました。
トム・ヨークは、そんなクラスに一人はいる、気難しく見た目もパッとしない根暗男子だったのです。ただ音楽に対する情熱だけはありました。Pixiesが大好きで、R.E.M.のマイケル・スタイプを尊敬していて、Talking Headsをこよなく愛するサブカル男子。
そんな男の子が恋をしたら…。
でもぼくは嫌なやつだ
ぼくはおかしなやつだから
ぼくは一体どうしたらいい?
この美しく、それでいて聴いているこちらが泣きたくなるくらいネガティブな歌詞は、一人の多感な男の子の純粋な恋心だったのです。
当時のUKリスナーの反応は最悪
もちろんこんなネガティブなラブソングなんて当時は存在しなかったので、英国でも少しばかり評判を呼びました。「上流階級の子も愛では悩むんだね!」という揶揄とともに。リリース年の英国チャートは75位でした。控えめに言っても、全然売れてません。それもそのはず。当時のイギリスでは、ロックは労働階級のものでした。こんな根暗インテリのポエムなんて誰も興味なかったのです。
それがどうでしょう。ラジオをきっかけに遠く離れた、イスラエルでヒットしてしまいます。今考えれば、謎の出来事です。その流れがアメリカに伝わり、そして本国イギリスへの逆輸入という形で大ヒットにつながりました。
こんなはずじゃなかった。バンドメンバーの困惑
彼らは戸惑ったことでしょう。もといトムは嬉しさと恥ずかしさの間で揺れ動いたはずです。だって考えてもみてください。いくらメロディが素晴らしいといっても、結局歌詞は「♪ 俺はキモい奴ぅ...でも君は特別ぅ...」ですよ。そんな恥ずかしい歌をうたいたくてミュージシャンになったわけじゃないんです。
なのにどの音楽イベントに行っても、単独ライブを開いても、みんな「あ!サビを叫ぶ変な人だ!Creep歌って〜!」って言ってくるんです。しかもお目当ての「Creep」を披露したら、そのあとどんな曲を演奏しても、みんな会場を後にしちゃうんです。これがどれだけつらいことか...。
(まさに What the hell am I doing here...? 状態ですね...)
その後『Ok Computer』という20世紀最高と称されるアルバムを作り上げるまで、バンドメンバーは5年間も辛酸を舐め続けました。それは、暗いトンネルの中をただひたすらに歩き続ける毎日でした。
「Ok Computer」の誕生。呪いからの解放。
3年の月日を経て、彼らは2枚目のアルバム「The Bends」をリリースしました。このアルバムは彼らの暗澹たる日々への怒りががそのまま収められています。
ただこれでも「Creep」の呪いは解かれませんでした。「The Bends」を歌うトム・ヨークには、本当に悲壮感が漂っています。(上の記事でライブ映像を観ることができます)
そしてついに、3枚目の伝説的アルバム『Ok Computer』を発表します。この作品の世界的大ヒットにより、ようやく彼らは「Creep」の一発屋というレッテルを外すことができました。そして『Ok Computer』発表の翌年(1998年)、彼らはライブのセットリストからそっと「Creep」を外しました。5年間に及ぶ呪いからようやく解放されたのです。その後10年以上、彼らが「Creep」を演奏することはありませんでした。
(アルバムの変遷はこちらの記事で解説しています。ぜひご覧ください)
20年の時を経て昇華された楽曲
そして時は流れ、2010年代、Radioheadは再びこの曲を演奏し始めました。一部では、嬉しいファンサービスと捉えていますが、私はこの30年で、トムの心境に変化があったのだと考えています。
「Kid A」以降、自分に自信を取り戻した彼は、この曲の「You」を違う存在へと置き換えて歌っているのではと思うのです。それは「Lift」に登場する天使であったり、「Reckoner」の創造主であったりする、絶対的な存在に対する憧憬であり、この世界に囚われた小さな人間による懇願なのです。
昨今のライブ映像を見ると、確かに遠くの、それでいて確実な存在を見据えているように見えてくるのです。
彼女はまたどこかに行ってしまう
ああ、彼女は行ってしまう・・行って、行って、行って・・!君を幸せにするものなら何でも・・
君が望むものなら何でも・・
君は本当に特別なんだ・・
ぼくもそうありたいんだ・・
この曲は20年の時を経て、ようやくあるべき場所にたどり着いたのです。
まさにEverything in Its Right Placeといったところでしょうか。
お後がよろしいようで・・。
あわせて読むとさらに深読み
参考リンク
苦悩に染められたレディオヘッドの「Creep」は、ファンにも彼らにとってもスペシャルな1曲に - TAP the POP|ミュージックソムリエ|TAP the POP