20年の時を経て、正式リリースされた名曲。
『OK Computer OKNOTOK 1997 - 2017』に初収録。
和訳
もう逃げたりしないよ、約束する
たとえ退屈を感じても、約束する
外に締め出されたって、約束する
毎晩お祈りをするよ、約束する
癇癪だって起こさない、約束する
子供っぽいことも言わない、約束する
たとえ船が沈んだとしても、約束する
ぼくはその船と一緒に沈むよ、約束する
もう逃げたりしないよ、約束する
たとえ退屈を感じても、約束する
たとえ船が沈んだとしても、約束する
ぼくはその船と一緒に沈むよ、約束する
もう逃げたりしないよ、約束する
歌詞
I won't run away no more, I promise
Even when I get bored, I promise
Even when you lock me out, I promise
I say my prayers every night, I promise
I don't wish that I'm spread, I promise
The tantrums and the chitty chats, I promise
Even when the ship is wrecked, I promise
I tie me to the rotting deck, I promise
I won't run away no more, I promise
Even when I get bored, I promise
Even when the ship is wrecked, I promise
I tie me to the rotting deck, I promise
I won't run away no more, I promise
解説
この歌は、まるで子供がお母さんに赦しを乞うように語られます。
退屈を感じても
外に締め出されたとしても
もう逃げたりしないよ
毎晩お祈りをするよ
素直な子ですね、感心感心。
でも次のフレーズ・・・
たとえ船が沈んだとしても、約束する
ぼくはその船と一緒に沈むよ、約束する
(=僕自身を腐った船の甲板に縛り付けるよ)
ここであれれ?となるわけです。
この箇所は、サビがないこの曲でトムが歌い叫ぶ唯一のシーン。
どうやら単なる子供の約束ではなさそうです。
「I Promise」という歌は、「船」の捉え方によって様々なテーマとして捉えることができます。以下で、2つの異なるテーマについて考察してみます。
表層のテーマ「愛する人との約束」?
「船」を「愛する人との生活」と捉えましょう。
「退屈を感じる」や「外に締め出される」という表現が、
倦怠期のカップルを表す言葉としてぐっと意味を持ってきます。
問題の箇所は「二人の生活が沈みかけている状態」、つまり破局を迎えた状態を表していると考えられます。
トムは「そのときはぼくも一緒に沈むよ」と言うわけです。
ぼくも君とうまくやれるよう、精一杯努力するよ
でもどうしてもダメな時は、ここでお別れだね
ということですね。
でも...全くRadioheadらしくない。(もとい、トムらしくない)
それに気になるのは「僕を縛り付ける」という言い回しです。本訳では「僕も一緒に沈むよ」としましたが、直訳だと「僕自身を腐った船の甲板に縛り付ける(Tie me to the rotting deck)」となります。
なぜわざわざこんな回りくどい言い方をするのでしょう?
私は、ここにこそトムの心が隠れていると感じます。
深層のテーマ「もう目を背けない。社会に対する決意表明」
冒頭の歌詞「もう逃げたりしないよ、約束する」と照らし合わせると、以下のテーマが浮かび上がってきます。
それは「(沈む船の上では、僕は逃げ出しそうだから)僕を甲板に縛り付け(て逃げられないようにす)るよ」という、固い決意の表れです。
まるでキューブリックの『時計仕掛けのオレンジ』で、主人公が強制的に暴力映画を見せられるような、そんな苦しい境遇に自分を置くよと宣言しているのです。
ではトムは「何」から逃げないと言っているのでしょうか?
それはこの曲が制作された時期と、この曲が「OK Computer」に入らなかった経緯から推測することができます。
「絶望」に入れなかった「希望」
「OK Computer」というアルバムは、トムとバンドメンバーによる、世の中への強烈な批判でした。人間性を欠いた社会に生きている人々・・彼らはそんな絶望に似た世界を、皮肉と悲壮感で飾り立ててアルバムに詰め込んだのです。
このアルバムに「希望」は必要ありませんでした。主張は一貫していればこそ、強い意味を持ったのです。
この曲がアルバムに収録されなかった理由はそこにありました。
『I Promise』という曲はまさに「希望」をテーマにした曲だったのです。
(同じ理由で『Lift』も採用を見送られたと考えられます。ギターのエド・オブライエンは「『Lift』を入れると、アルバムが売れすぎると思ったから」と茶化していますが、きっとバンドはこの2曲が持つポジティブさが、アルバムのコンセプトを損なうと考えたのでしょう)
つまり『I Promise』でトムが向き合おうと語っているのは、「駄目になりつつある世の中」であり、それは彼らが『OK Computer』で描いた世界そのものだったのです。
世界が沈むとしても、僕は最後までこの世界で生きるよ
『No Surprises』の主人公は、生きにくい世の中から逃げ出しました。しかし後悔の念に苛まれてしまいます。
『Lift』では苦しみの世界で救いを求めています。救われはしましたが、それは天国の生活です。
そして『I Promise』では、「世界が沈むとしても、僕は最後までこの世界で生きるよ」と宣言するのです。
なんと静かで力強い歌なのでしょうか。
20年の時を経て、「In Rainbows」や「A Moon Shaped Pool」が送り出された今だからこそ、この楽曲が私たちの心に響くのだと感じます。
<あわせて読むとさらに深読み>