深読み、Radiohead通信|歌詞和訳と曲の解釈

Radioheadの歌詞を和訳してます。トムの心境やバンドのエピソードも交えながら「こう聴くとめちゃ深くなるよ」といった独自解釈を添えてます。

【歌詞和訳】Optimistic / Radiohead - 巨大な多国籍企業が地球を蹂躙する

『Kid A』に収録されたタムの規則的なリズムが印象的なロックナンバー。
2001年以降のライブでもたびたびセットリストに上がっている。
歌詞はカナダのジャーナリスト、ナオミ・クラインの著書『ブランドなんか、いらない(原題:No Logo)』に影響を受けたと言われる。

【歌詞】

Flies are buzzing around my head
Vultures circling the dead
Picking up every last crumb
The big fish eat the little ones
The big fish eat the little ones
Not my problem give me some

You can try the best you can
You can try the best you can
The best you can is good enough
You can try the best you can
You can try the best you can
The best you can is good enough

This one's optimistic
This one went to market
This one just came out of the swamp
This one drops a payload
Fodder for the animals
Living on an animal farm

You can try the best you can
You can try the best you can
The best you can is good enough
You can try the best you can
You can try the best you can
The best you can is good enough

I'd really like to help you man
I'd really like to help you man
Nervous messed up marionette
Floating around on a prison ship

You can try the best you can
You can try the best you can
The best you can is good enough
You can try the best you can
You can try the best you can
Dinosaurs roaming the earth
Dinosaurs roaming the earth
Dinosaurs roaming the earth

 

【日本語訳】

ハエが僕の頭のまわりを飛び回っている
ハゲタカが死体のまわりを旋回している
そして最後のひとかけらまでついばんでいる
大きな魚が小さな魚を喰らう
大きな魚が小さな魚を喰らう
まあ僕には関係ないや、わけておくれよ

精一杯やるんだよ
精一杯やるんだよ
精一杯やれば、それで十分さ
(※繰り返し)

そんな誰かの楽観主義
これはマーケットに行き
そしてちょうど沼から這い出てきた
放り投げられた荷物は
家畜小屋で暮らす動物たちの飼料になる

精一杯やるんだよ
精一杯やるんだよ
精一杯やれば、それで十分さ
(※繰り返し)

ああ僕は君をそこから救い出したいんだ
僕は君をそこから救い出したいんだ
神経質に混乱したマリオネットが
海の監獄の上を飛び回っている

精一杯やるんだよ
精一杯やるんだよ
精一杯やれば、それで十分さ
(※繰り返し)

恐竜が地球を蹂躙している
恐竜が地球を蹂躙している
恐竜が地球を蹂躙している

【解説】

「Optimistic」とは「楽観的な」という意味の単語です。

この一見ポジティブなタイトルと『Kid A』における唯一のロックアンサンブルに騙されそうになりますが、この曲の本質は巨大企業による搾取への批判なのです。

「ハゲタカ」「大きな魚」そして「恐竜」

この曲の歌詞はカナダ出身のジャーナリスト、ナオミ・クラインの著書『ブランドなんか、いらない(原題:No Logo)』に影響を受けたと言われています。

『ブランドなんか、いらない』(1999年出版)

この著作では基本的に経済的なグローバリゼーションを背景としながら成長している多国籍企業での労働の実態を描き出している。

(中略)クラインの意図とは、世界を超えて広がりつつある経済システムと企業の権力について分析を加えることによって、新しい市民運動の可能性を示すことにあった。

(出典)ブランドなんか、いらない - Wikipedia

トムはこれら巨大多国籍企業による資本活動を以下のように表現しました。

ハゲタカが死体のまわりを旋回している
そして最後のひとかけらまでついばんでいる
大きな魚が小さな魚を喰らう
(中略)
恐竜が地球を蹂躙している

「ハゲタカ」「大きな魚」は弱い者を食い物にする強欲な人間、「恐竜」は巨大になりすぎた多国籍企業の暗喩です。これらの企業は、発展途上国の安価な労働力を食い物にして大きくなりました。

 

「楽観主義者」は搾取に加担している無自覚な消費者(私たち)

またクライン氏は前述の書籍においてこのような批判を展開しています。

(これらの巨大多国籍企業が)自社のブランドを計画的に形成しながら都市、音楽、スポーツ、学校、社会運動などに展開させ、自社の知名度と影響力を国際的に拡大し続けてきた。

(出典)ブランドなんか、いらない - Wikipedia

恐ろしいことに、我々は知らず知らずのうちに、彼らが搾取の上で提供しているものを「良いもの・格好いいもの」として認識してしまっているのです。

  • イケてる大人は車を乗り回すのさ(シェル石油)
  • スポーツシューズを履いて汗を流すのっていいよね!(ナイキ)
  • I'm loving it!(マクドナルド)

トムはこれらのプロパガンダを何の疑いもなく信じ、そして消費してしまっている人間たちを「楽観主義」と揶揄したのです。

まあ僕には関係ないや、わけておくれよ

家畜小屋で暮らす動物

神経質に混乱したマリオネット

とても、とても痛烈な批判です。
これは彼ら(私たち)を客観的に捉えた姿なのです。

「精一杯やればいいんだよ」という幻想

最後に、この楽曲の骨子に迫ります。

トムはサビで「楽観主義者」の声をあえて代弁することで資本主義の原則である「機会の平等」という幻想を皮肉ります。

精一杯やるんだよ
精一杯やるんだよ
精一杯やれば、それで十分さ

「楽観主義者」たちは、努力はいずれ報われるものと考えています。先進国の多くの人間は、途上国の住人が経済的に浮かび上がれないのは努力が足りないからだと冷ややかに捉えている節があります。

でもこの考えは正しくありません。巨大多国籍企業が牛耳る世界ではいくら頑張っても、搾取される人間は決して報われません。社会の構造はある地点を境に決定的にねじ曲がっており、搾取される側は常に搾取され続けるようにできているのです。

そして彼らを海の上の監獄に閉じ込めているのは、他でもない「楽観主義者」である我々なのです。我々がこの消費を止めない限りは、この巨大な恐竜はずっと地球にのさばり続けるのです。

 

さいごに:変わりつつある社会

前述の書籍や『Kid A』が世に出た前後から、世論も次第に変わりつつあります。
世間に衝撃を与えた「ナイキ問題」は記憶に新しい方もいるのではないでしょうか。

ナイキのビジネスモデルは(中略)発展途上国の労働者からの「搾取」もあって、成り立っていたのだ。

1997年、ナイキが委託するインドネシアやベトナムといった東南アジアの工場で、低賃金労働、劣悪な環境での長時間労働、児童労働、強制労働が発覚。この事態に米国のNGOなどがナイキの社会的責任について批判した。世界的な製品の不買運動が起こり、経済的に大きな打撃を受けた。

(出典)米ナイキが苦難の末に学んだ、CSRとは? | ここが変だよ!日本のCSR | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

ただこの事件は氷山の一角にすぎません。

問題の本質は社会の根深いところにあり、根本解決にはまだまだ時間がかかります。私たちはきちんと目を開いて世界を見なければいけません。

果たして、あなたがいま手にしているスマートフォンは、一体どこで作られたものなのでしょうか。

 

 

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