The Smile「You Know Me!」(ユー・ノウ・ミー!)の和訳・解説。
セカンドアルバム『Wall Of Eyes』を締めくくる1曲。穏やかなピアノが浮遊感を誘う。
【歌詞】
You with your X-Ray specs
You can see inside of me
Or not
I'm a boxer on the ropes
You are standing in my light
You've wound yourself around me
Like you know me
I am smelling user
Something bright and clean and shiny
And when my back is turned
The point of a blade, a blade
Always "You know me"
Always "You know me"
"You know me"
"Keep your arms up son"
You don't scare me
All chantings, chantings
Old galaxies, galaxies
And a town that's under water
None of these is mine
And a town that's under water
None of these is mine, is mine
Always "You know me"
Always "You know me"
"Know me"
Don't think you know me
Don't think that I am everything you say...
※X-Ray specs: アメリカで販売された固体を透視したり、内部を見ることができるとされるおもちゃのメガネのこと(参考:Wikipedia)
【和訳】
あんたは X線グラスで
ぼくの内側を 見ている
いや見えてないのか
ぼくはロープを 背にしたボクサー
あんたはぼくの 光の中にいる
あんたはぼくに 巻きついてくる
まるでぼくを わかってるというふうに
ぼくは嗅ぎ取っている
何か 明るく 清潔で 輝くものを
そしてぼくが 背を向けた途端
刃の切先が 刃の...
いつだって "あんたはぼくを知っている"
いつだって "あんたはぼくを知っている"
"あんたはぼくを知っている"
"みな、両手を挙げなさい"
あんたなんて 怖くないんだ
すべての祈り
いにしえの銀河
水に沈んだ街
何一つ ぼくには関係ない
水に沈んだ街
何一つ ぼくには関係ない ぼくには...
いつだって "あんたはぼくを知っている"
いつだって "あんたはぼくを知っている"
"ぼくを知っている"
ぼくのことがわかるなんて 思わないでくれ
すべてあんたの言うままだなんて 思わないでくれ...
【解説】
Radiohead時代から、アルバムのラストはしめやかな曲で締めくくられますよね。「Videotape」や「4 Minute Warning」、「True Love Waits」などなど。今回の「You Know Me!」もその延長線上にある楽曲と感じられます。
この曲の解釈は2つあります。
1つ目は「トムを観察する人々に対する警告」、
2つ目は...ちょっと重いので後半で明らかにしましょう。
[解釈1] トムを観察する人々に対する拒否
これはわかりやすいですね。「俺のことをわかったように言うんじゃないよ」というメッセージです。「X-Ray specs」というのは、ものを透けて見えるメガネのおもちゃみたいです。(もちろん透けません)
そのメガネで、トムの内面をわかったように言ってくる人たちがいるんです(わたしのことです...)。「ぼくはロープを背にしたボクサー」というのも、そういった人々がトムを袋叩きにしているイメージです。「ぼくのことがわかるなんて思わないでくれ」というのは、切なメッセージとして受け取ることができます。
ただね、この解釈、わたし的にはあまりしっくり来てないんです。自分を擁護したいとかではないですよ。いや、少しはそういう気持ちもありますが、違うんです、何よりこの楽曲の深淵さとマッチしていませんし、アルバムのテーマから考えても、腑に落ちないんです。
そこで2つ目の解釈が持ち上がります。それは「キリスト教との決別」です。
[解釈2] キリスト教との決別
ここから先は深読みなので、真に受けなくて良いですよ!
私が「そう考えたら、より深く聴けるよ」と思っているだけなので!
ただどうしてもね、この歌詞、一線超えちゃってる気がするんです。そもそも『Wall Of Eyes』ってアルバム自体、めちゃくちゃ実存主義的じゃないですか。
例えば、冒頭の2曲からもそれはひしひし感じられます。「Wall Of Eyes」は「空想の縛りから抜け出せ」がテーマですし、「Teleharmonic」に至っては正面切って「信仰への不信感」が示されています。ここには、トムが明らかに西洋主義の神話から離れて、実存的な現実世界を重視していることが見て取れます。
そうして歌詞を眺めると、西洋人的には、かなり踏み入った内容だと感じられちゃうんです。つまり歌詞の「You」とは、神様のことなんです。キリスト教における全知全能の神。彼(?)は何でも知っているし、いつも心の中にいる存在です。
こうして見ると、すべての歌詞がスッと入ってくるんです。順に見ていきましょう。
あんたは X線グラスで
ぼくの内側を 見ている
いや見えてないのか
「どこにいても何をしていても、神はあなたを見ている」。キリスト教における神はそういう存在です。だから悪いことはせず、善行に励みましょうという教義なのですが、早速トムは「Or not(いや見えてないのか)」と口にしてしまいます。怪しい雰囲気が漂ってきましたね。
ぼくは嗅ぎ取っている
何か 明るく 清潔で 輝くものを
そしてぼくが 背を向けた途端
刃の切先が
キリスト教の根幹は「信じるものは救われる」です。つまり逆も然り。「信じないものは救われない」のです。「背を向ける」とは「信仰をやめること」です。すると「刃」が向かってくるのです。ここにも信仰への皮肉が見え隠れします。
いつだって "あんたはぼくを知っている"
ここに至っては、もはや挑発です。煽ってます。
"みな、両手を挙げなさい"
あんたなんて 怖くないんだ
「両手を挙げなさい」は教父が言うんでしょうかね。手を挙げるのは祈りのポーズです。それに対して「You don't scare me(あんたなんて怖くない)」とバッサリ。
すべての祈り
いにしえの銀河
水に沈んだ街
何一つ ぼくには関係ない
ここは非常に直接的ですよ。3つの神性が示されています。「信仰により支えられる神」、「宇宙を作った神」、水に沈んだ街は「ノアの箱舟」の寓話からでしょうか。いずれも神の偉大さを表しています。それを「None of these is mine(何一つぼくには関係ない)」と言い放ってしまいます。
この部分が歌詞全体におけるハイライトだと感じます。これは極めて実存的な考え方です。一見ニヒリズムにも思える部分ですが、これは裏から読むととても人間的なメッセージなのです。
例えば、目の前に飢えて凍えている人がいたとします。そのときあなたはどうするか。「神に祈りましょう」とでも言うでしょうか。いいえ、それでは彼は救われません。必要なのは信仰ではなく、食べ物と温かい毛布です。そう。もはやこの世界の混乱は、信仰では解決できないのです。「None of these is mine」とはつまり、信仰に頼るのをやめて、現実的な解決法を見つけるという意思表明でもあるのです。
ぼくのことがわかるなんて 思わないでくれ
すべてあんたの言うままだなんて 思わないでくれ...
そして最後に決別の一言。「I am everything you say(あんたの言うまま)」は、神は何でも知っているという解釈でも良いですし、そもそも神が人間を造ったという解釈でも良いと思います。とにかく、神的なものに「Don't think(そう思わないでくれ)」と別れを告げるのです。
おわりに
さて、いかがでしたでしょうか。かなり過激な深読みになってしまいました。Mr. Thom、違ってたら本当にごめんなさい。他人の信仰に土足で踏み入るなんて良くないですよね...。ただどうしても、私にはそういう風にしか感じられなかったんです。
それに私には、トムがそうして大きな一歩を踏み出したことが嬉しくてしょうがないんです。現実に目を向けようというメッセージに感じられたんです。もし解釈が見当違いでも、私はこの歌に勇気をもらいましたし、私も一歩踏み出そうと思えたんです。
編集後記
この記事を公開するのは躊躇われました。あまりにトムの宗教観に肉薄しているのですもの...。そもそも見当違いで、この楽曲は私自身に向けられているのかもしれません。壁越しにトムに睨まれている気がします。あくまで「こう聴くとめちゃ深くなるよ」ということでご容赦くださいませ。信じるか信じないかはあなた次第です。
Don't think you know me
Don't think that I am everything you say...
ぼくのことがわかるなんて 思わないでくれ
すべてあんたの言うままだなんて 思わないでくれ...