The Smile『Cutouts』の先行シングル「Foreign Spies」(フォーレン・スパイズ)の和訳・解説。美しいメロディはジョニー・グリーンウッドのオーケストラ曲「Horror Vacui」がベースとなっている。
【歌詞】
In a beautiful world
We are melting
And go running
Nailed down
Somewhere lurking
Form a line falling over
Zip tied
Foreign spies
Foreign spies
In a beautiful world
Paved with gold
But who's counting way up there?
And they’re grabbing kitchen knives
Every time our backs are turned
Foreign spies
Foreign spies
Foreign spies
Foreign spies
Foreign spies
It's a beautiful world
【和訳】
美しい世界で
ぼくらは溶けている
ぼくらは走っている
ぼくらは釘付けにされている
ぼくらはどこかに潜みながら
列を作ってころがり落ちてる
ぼくらは縛られている
外世界のスパイたちよ
外世界のスパイたちよ
美しい世界
そこはすべてが金で舗装されている
でも誰が空の上で数えてるんだ?
彼らはキッチンナイフを手に取る
ぼくらが背を向けるたびにさ
外世界のスパイたちよ
外世界のスパイたちよ
外世界のスパイたちよ
外世界のスパイたちよ
外世界のスパイたちよ
ここは美しい世界だ
【解説】
The Smileがこれほど美しい楽曲を、正面から制作してくれたことに感動しました。
1作目『A Light for Attracting Attention』時代の鬱々とした雰囲気から、見事に抜け出してくれましたね。当時はコロナ禍でトムも相当気が滅入っていた様子だったので、ようやく吹っ切れたといったところでしょうか。「Foreign Spies」は幻想的でいて、どこか儚げな、まるで夢の世界から響いてくるようです。
ジョニーとトムの共同作業
「Foreign Spies」は、The Smileのギタリスト、ジョニー・グリーンウッドが2019年に書いたオーケストラ曲「Horror vacui」がベースになっているようです。(下記動画 30:47〜)
この制作パターンは以前もありましたね。Radioheadの「Present Tense」も、ジョニーが書いた映画版「ノルウェイの森」のサウンドトラックが元になっています。ジョニーの旋律に、トムが歌と歌詞をつける。この二人の共同作業こそ、Radiohead / The Smileの魅力の一つですよね。
Foreign spies(外世界のスパイたち)とは何なのか?
歌詞を見ていきましょう。全体を通して「We(私たち)」と「They(彼ら)」の対比で構成されます。「We」は「この世界に住む私たち」、「They」は「Foreign spies」と捉えて良いでしょう。
はじめこの曲を聞いたとき、1番Verseの「Somewhere lurking / Form a line falling over(どこかに潜みながら、列を作ってころがり落ちてる)」のは「Foreign spies」だと思っていたんです。だって曲名が「外国のスパイ」なんですもの。誰だって「外国のスパイがどこかに潜んでいる」と考えますよね。でもそうすると、曲全体の意味が全く通らないんです。
そこで気づきました。文脈からすると、1番の主語は全部「We(ぼくら)」とした方が自然ですよね。だって「Foreign spies」はまだ登場してないんですもの。完全なミスリードです。なので、和訳ではあえて「ぼくらは」と明示しました。
Somewhere lurking
Form a line falling over
Zip tied
ぼくらはどこかに潜みながら
列を作ってころがり落ちてる
ぼくらは縛られている
ここに至ってハッとしました。この歌詞、どこかに似た表現がありませんでしたっけ? そう! 前作『Wall Of Eyes』収録の「Teleharmonic」の冒頭にそっくりなのです。
Whining drones
On a cold sea
Ramming down doors, piling in
めそめそした怠け者たちは
冷たい海の上で
ドアを突き破って折り重なってる
(The Smile / Teleharmonic より)
ここまで来ると、この楽曲も「Teleharmonic」と同じテーマを扱っていると考えるのが自然でしょう。つまり「Foreign Spies」は「神の国の住人」なのです。(ぜひ前の記事も見てみてくださいね)
一般的には「Foreign spies」は「外国のスパイ」と訳しますが、この和訳では「外世界のスパイ」としました。歌詞の上では、神や天使のことを指して「外の世界から人間の世界を覗き見る存在」として描いているためです。
少し飛躍しすぎでしょうか?
いやいや。2番の歌詞も見てもらえたらきっとあなたも納得します!
背を向けると刃を向ける存在
And they’re grabbing kitchen knives
Every time our backs are turned
彼らはキッチンナイフを手に取るんだ
ぼくらが背を向けるたびにさ
これは2番のVerse部分です。この部分も、さきほどと同じく酷似する楽曲が存在するのです。それは『Wall Of Eyes』の最後の曲「You Know Me!」の一節です。
And when my back is turned
The point of a blade, a blade
そしてぼくが背を向けた途端
刃の切先が 刃の...
(The Smile / You Know Me! より)
そっくりでしょう? この楽曲も、キリスト教との決別を描いた、極めて宗教色が強い楽曲でした。同じテーマを繰り返し描くところに、トムの思い入れが見え隠れします。(こちらも別記事をご参照ください)
そもそもスパイとは?
そもそもスパイというものは、こちらの情報を盗み取るのが仕事です。ときに危害を加えてくることはあれど、何も利益をもたらすことのない、不要な存在なのです。
神や天使を「外世界のスパイたちよ(どこかでぼくらを覗き見ているだろう?)」と比喩することで、なおも彼らと自らに一線を引こうと試みているわけです。
おわりに
いかがでしたか。Wall Of Eyes以降、明らかにトムの歌詞が生き生きとしてきましたよね!
それにジョニー好きの私としては、メロディの端々にジョニーを感じられて、とても嬉しかったです。
記事が面白いと思った方は、ぜひお気軽にコメントくださいね!