深読み、Radiohead通信|歌詞和訳と曲の解釈

Radiohead・トム・ヨーク・The Smileの歌詞を和訳してます。トムの心境やバンドのエピソードも交えながら「こう聴くとめちゃ深くなるよ」といった独自解釈を添えてます。

【和訳解説】This Conversation is Missing Your Voice / Mark Pritchard & Thom Yorke - この会話には君の声が欠けている

Mark Pritchard(マーク・プリチャード)とThom Yorke(トム・ヨーク)の初コラボアルバム『Tall Tales』の先行シングル。「This Conversation is Missing Your Voice」(この会話には君の声が欠けている)の和訳・解説。ドラムマシーンに乗せたトムの軽快なボーカルが印象的。

【歌詞】

An opportunist state of mind
Give me something
Give me something
TV Eyes
A waste of my time
In need of some attention
And yes I mind
I can't handle
Cutting from the chest down

I'm not your problem to be corrected
How can you function with a mind ejected?

That's not right
That's not normal
I try forgetting the architect
Give me something
Vomit up
What is my percentage?

Now I think it's my turn
I think you should step aside
Now I think it's my turn
I think you should step aside

Oh, I'm not your problem to be corrected
How can you function with a mind ejected?

Why won't you tell us what is bothering you?
Why won't you tell us what is bothering you?
This conversation is missing your voice

When you know it's time
When you know it's time to go
When you know it's time
When you know it's time to go

【和訳】

日和見主義の心境さ
何かおくれよ
何かおくれよ
テレビの眼差し
時間の無駄
注意が必要だ
そう 僕は気にするんだ
対処できないから
胸から下を 切り落とされたらさ

僕は君にとって たいした問題じゃないんだろ
どうしたら 思考を捨てて動けるんだ?

おかしいよ
普通じゃない
設計者のことを 忘れようとしてるんだ
何かおくれよ
吐き出すんだ
僕の取り分は どれくらい?

僕の番がきたんじゃないか
君は身を引くべきさ
僕の番がきたんじゃないか
君は身を引くべきさ

ああ 僕は君にとって たいした問題じゃないんだろ
どうしたら 思考を捨てて動けるんだ?

どうして話してくれない? 何が君を苦しめているのかを
どうして話してくれない? 何が君を苦しめているのかを
この会話には 君の声が欠けている

その時が来たと  わかったときに
そろそろ潮時だと わかったときに
その時が来たと  わかったときに
そろそろ潮時だと わかったときに

【解説】

めちゃくちゃ良いじゃないですか!
そして本楽曲とともに、新アルバム『Tall Tales』が発表されました!

Tall Talesは、”ホラ話”という意味です。ただこれ、絶対皮肉ですよ。きっと「全部おとぎ話だよ〜ん」とか言いながら、辛辣な社会批判を展開するに決まってます。楽しみすぎますね!

どうやら今回の『Tall Tales』プロジェクト、すべてマーク・プリチャードの音源がベースみたいですね。コロナ禍でヒマになったトムが、マーク・プリチャードに頼んで音源を送ってもらい、二人でオンライン上でやりとりして膨らませていったんだそうです。ちなみにトムは「ボーカルと歌詞とサウンドを探した」らしいです。

参考)トムのYotubeチャンネル

これを知って納得しました。実は私、一足先に発表された「Back in the Game」がちょっぴり残念だったんですよ。あのアヴァンギャルドなMVといい、平坦なスタジオアレンジといい、トムっぽいようで、トムらしくなかったのですもの! ただまあ、マーク・プリチャード主導のプロジェクトであれば、それはそれで良いのです。トムがスポイルされちゃったのかなあ......なんて心配してたので、トムが楽しくやってることがわかって安心しました!

ぼくらは仕組みに組み込まれている

さて、歌詞を見ていきましょう。

An opportunist state of mind
Give me something
日和見主義の心境さ
何かおくれよ
What is my percentage?
僕の取り分はどれくらい?

まずは"opportunist"(日和見主義者)の言葉選びから、『Kid A』の「Optimistic」が思い出されますね。後半で"What is my percentage?"なんて言ってますし。

Not my problem give me some
僕には関係ないや、わけておくれよ
This one's optimistic
そんな誰かの楽観主義
Optimistic」より

かなり確信的に、過去の言葉を選んでいるように感じます。そして「Optimistic」は資本主義への批判でした。「This Conversation is Missing Your Voice」も似たようなテーマを扱ってると考えるのが良さそうです。

I'm not your problem to be corrected
How can you function with a mind ejected?
僕は君にとってたいした問題じゃないんだろ
どうしたら思考を捨てて動けるんだ?

ここでは、この社会を維持する存在を「思考を捨てて動いている」と表現します。そしてその社会にとって「僕」は「たいした問題ではない」と考えます。社会にとって駒でしかない「僕」の幸せなんてものは、社会の仕組みにとってはどうでもいいことだと言わんばかりです。

僕の番がきたんじゃないか

以前のトムであれば、ここまでで思考を停止してたはずです。
でもさすが進歩を止めない男トム・ヨーク。今作ではさらに一歩踏み込んでます。

Now I think it's my turn
I think you should step aside
僕の番がきたんじゃないか
君は身を引くべきさ

社会の仕組みの限界を示唆して、「僕の番がきた」と言い放ちます。
なんと希望にあふれた一節でしょう!

この会話には 君の声が欠けている

ただ、曲の終盤の解釈は難しいものがあります。楽曲全体を通して「You」が同一対象なのかそうでないのか判断しにくいからです。

Why won't you tell us what is bothering you?
This conversation is missing your voice
どうして話してくれない? 何が君を苦しめているのかを
この会話には君の声が欠けている

もし「You」が全体を通して同一だとすると、この一節の「You」も「身を引くべき」体制側の人々ということになります。そして「苦しんでいる」のもこの人々ということになります。たしかに「There There」でも、戦争に向かう愚かな政治家たちすら「肩に取り付いた何者か」に操られた被害者だと描いたトムですから、そういう見方もあるかもしれません。

でも普通に考えれば、トムが耳を傾けたいのは弱い立場にある人々のはずです。であれば「思考を捨てて動く」は体制側の人々ではなく、思考停止して物を消費し、テレビで時間を浪費してしまっている消費側の人々と捉えられます。

もしかしたら、どちらの意味でもとれるようにしたのかもしれません。いずれにせよ、会話が成立していないことには変わりはないのですから。(奇しくも『Kid A』の「Idioteque」でもそんなことを言っていましたね)

Let me hear both sides
双方の意見を聞かせてくれ
Idioteque」より

【おわりに】

「This conversation is missing your voice」の部分、とりわけエフェクターでボーカルを変化させたのも、異なる立場からの発言だと示したかったからなのかもしれません。アルバムの全貌が見えたら、また新しい解釈も浮かんでくるかもしれませんね。

ちなみにMVは荷物の集荷場です。アマゾンを連想させられますよね。これもテーマに沿っていると考えたら面白いです。

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