深読み、Radiohead通信|歌詞和訳と曲の解釈

Radiohead・トム・ヨーク・The Smileの歌詞を和訳してます。トムの心境やバンドのエピソードも交えながら「こう聴くとめちゃ深くなるよ」といった独自解釈を添えてます。

【和訳解説】Myxomatosis / Radiohead — 感染する大衆化という病

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Radioheadの6作目のアルバム『Hail to the Theif』に収録されている。同アルバムでバンドが最初に取り掛かった曲らしい。歌詞のアウトラインは、トムが大学時代に書いた短編小説が元になっている。

【和訳】

雑種の猫が帰ってきた
半分の頭をくわえて
そしてそれを見せびらかした
できたばかりの友達に

彼は言った
「好きな場所にいて、好きな相手と寝た
まったく彼女には敵わないぜ
ぼくをつかんで離さないんだからさ
でも──
なぜだろう
うまく舌が回らないんだ...」

ぼくは食器棚の中に座って
その風景をきちんと書き留めた
観衆は歓声を上げて、手を振って、歓声を上げて、手を振って......
痙攣して、よだれを垂らしてた...まるでミキサマトーシスみたいに

でもぼくの記事は編集され、台無しにされ、
握りつぶされ、打ちのめされて、
『Time』誌の写真に使われて、
デヴォン州のブラックホールに埋められた

なぜだろう
うまく舌が回らない
なぜだろう
皮を剥がされるように痛い

ぼくの考えは見当違いで、少し世間知らずみたいだ
ぼくは痙攣して、よだれを垂らす...まるでミキサマトーシスみたいに
ぼくを施設に入れるか、さもなくば安楽死させてくれ
ぼくはミキサマトーシスに感染した
ぼくはミキサマトーシスに感染した

ああ、賢ぶるやつは嫌われるのか、みんなスターは好きなのにな
待ってくれ、そんなつもりじゃなかったんだ、ちゃんと理由があったんだ
そんな声は捻じ曲げられ、握りつぶされ、打ちのめされた
ぼくはミキサマトーシスに感染した
ぼくはミキサマトーシスに感染した

なぜだろう
うまく舌が回らないんだ...

・eat ~ for breakfast:簡単に打ち負かす

【歌詞】

The mongrel cat came home
Holding half a head
Proceeded to show it off
To all his newfound friends
He said, 
"I've been where I liked
I slept with who I like
She ate me up for breakfast
She screwed me in a vice

But now
I don't know why I
Feel so tongue tied"

I sat in the cupboard
And wrote it down in neat
They were cheering and waving, cheering and waving
Twitching and salivating like with myxomatosis
But it got edited, fucked up
Strangled, beaten up
Used as a photo in Time magazine
Buried in a burning black hole in Devon

I don't know why I
Feel so tongue tied
Don't know why I
Feel so skinned alive

My thoughts are misguided and a little naïve
I twitch and I salivate like with myxomatosis
You should put me in a home or you should put me down
I got myxomatosis, I got myxomatosis
Yeah, no one likes a smartass, but we all like stars
Wait, that wasn't my intention, I did it for a reason
It must have got mixed up, strangled, beaten up
I got myxomatosis, I got myxomatosis

I don't know why I
Feel so tongue tied

【解説】

とんでもない曲です。地を這うようなキーボードと変則的なリズム。そこに淡々と吹き込まれるトムのボーカル。『Hail to the Theif』において、「2+2=5」「There There」と並ぶ、社会批判の名曲です。

Myxomatosis(ミキサマトーシス)とは?

まず、タイトルの“Myxomatosis”ですね。この曲でしか聞いたことがない言葉ですよね。これは、ウサギの間で流行るウイルス性の病気なんですね。重要なのは、ただの病気ではなく、増えすぎたウサギをまとめて駆除するために、人間が意図的に広めた病気ということですね

なぜトムは、こんな物騒なウイルスの名前をタイトルにしたのでしょうか。それはこの楽曲が、ある種の感染症の寓話だからです。

離れて見ていたはずなのに...

では「Myxomatosis」のストーリーを追ってみましょう。まずは冒頭から。

雑種の猫が帰ってきた
半分の頭をくわえて
そしてそれを見せびらかした
できたばかりの友達に

「雑種の猫」が「できたばかりの友達」を前に、人目をひくことを言い、何かしら称賛を浴びている姿ですね。この猫は何者でしょうか? 後でわかりますが、この猫はみんなが大好きな「Star(スター)」なんですね。威勢の良い姿を見せて、衆目を集めているわけです。

そんな状況を、主人公猫(トム)は食器棚の中から、一歩引いて見ています。

ぼくは食器棚の中に座って
その風景をきちんと書き留めた
観衆は歓声を上げて、手を振って、歓声を上げて、手を振って......
痙攣して、よだれを垂らしてた...まるでミキサマトーシスみたいに

スター猫と称賛する猫たちが騒いでいます。まるでMyxomatosisに罹ったみたいに。主人公猫はその状況を書き留めます。きっと記者なのですね。これを記事として発表する気なのです。でも...

でもぼくの記事は編集され、台無しにされ、
握りつぶされ、打ちのめされて、
『Time』誌の写真に使われて、
デヴォン州のブラックホールに埋められた

突然物騒な話になってきましたね...。ちなみに『Time』はアメリカの大衆向け雑誌ですね。表紙が世界一有名なやつ。よく見ますよね。

Time誌の表紙

こんな世界的な雑誌に取り上げられたら、さぞかし記者的には成功だって思うでしょう。でも全く違うんですよ。

でもぼくの記事は編集され、台無しにされ、
握りつぶされ、打ちのめされて、
『Time』誌の写真に使われて、
デヴォン州のブラックホールに埋められた

主人公が伝えたかった現実は、骨抜きにされて、まったくナンセンスな記事として世の中に公表されてしまったわけです。そして全く違った形で解釈され、そして一瞬で忘れ去られ、世界の片隅に消えてしまった。

※ちなみに"Devon"は地名で、イングランドのデヴォン州。イングランド南西部のいわゆる田舎町らしいです

そして主人公は、ふと気づきます。

なぜだろう
うまく舌が回らない
なぜだろう
皮を剥がされるように痛い

なんと! 離れて見ていたはずなのに、何やら症状が出始めたようです。

ぼくの考えは見当違いで、少し世間知らずみたいだ
ぼくは痙攣して、よだれを垂らす...まるでミキサマトーシスみたいに
ぼくを施設に入れるか、さもなくば安楽死させてくれ
ぼくはミキサマトーシスに感染した
ぼくはミキサマトーシスに感染した

ここで主人公は気付くんですね。自分は違うと思っていたのに、結局はみなと同じ感染症にかかってしまっていたことに。続いて、状況を認めたくない葛藤が繰り広げられます。

ああ、賢ぶるやつは嫌われるのか、みんなスターは好きなのにな
待ってくれ、そんなつもりじゃなかったんだ、ちゃんと理由があったんだ
そんな声は捻じ曲げられ、握りつぶされ、打ちのめされた
ぼくはミキサマトーシスに感染した
ぼくはミキサマトーシスに感染した

ここで「スター」が引き合いにだされます。これは冒頭の雑種の猫のことですね。大した中身はないのに、みんな彼のことを称賛してましたね。

そして「賢ぶるやつ」とは主人公猫自身のことです。この主人公猫は、世界をありのまま伝えようという意図があったんです。そこにはきっと善意がありましたし、高邁な精神もあったはずです。でもメディアは無慈悲に編集し、握りつぶしてしまった。もう誰にも主人公の言葉は伝わらなくなってしまいました。

なぜだろう
うまく舌が回らないんだ...

主人公は無力感に打ちひしがれ、濁音の渦に巻き込まれ、楽曲は終焉を迎えます。

メディアの不道徳さ

さて。この寓話は、一体何を表しているのでしょうか?

答えは当時のトム・ヨークのインタビューにあります。少し長いですが引用しましょう。

当時の自分は、いまの政治そのものみたいな“渦巻く真空の外縁”にいる感覚を味わってたんだ。で、その中心に近づいてみると、竜巻の目みたいに、そこには何もない。ただの空虚なんだ。『Myxomatosis』は、まさにその感覚から生まれた曲なんだよ。『いや、俺そこにいたけど、そんなふうじゃなかったぞ』っていう気持ち。けど、そう言うと“自分がおかしいんじゃないか”って思わされる。だって自分が見たものと、報道されてることがまるで違うんだから。

特にきっかけになったのは、数年前の”ドロップ・ザ・デット(債務帳消し運動)”のとき。あれがずっと心に残ってる。ケルンに行ったときのことなんだけど、前にも話した通り、G7かG8(どっちが外されたかもう覚えてないけど)に抗議して、優しいおばあさんたちやクエーカー教徒たちが集まってた。俺たちは何百万もの署名を集めた嘆願書をシュレーダーに渡したんだ。

でも同じころ、ロンドンで起きたデモが小さな暴動になった。Reclaim The Streetsって団体が関わってたけど、たぶん暴動そのものには関係なかったと思う。でもイギリスのマスコミは──特にマードック系の新聞は、そういうのが大好物だから──まるで「おばあさんたちもクエーカー教徒も、みんな過激な反資本主義の狂信者」みたいに書き立てた。あたかも全部が連携した抗議活動だったかのようにね。もちろん、そんなの全くのデタラメさ。

そのせいで、何百万人もの署名という現実が完全に無視された。ほんと、ひどい報じられ方だったよ。そして思ったんだ。人間って、どれほど無力なんだろうって。たとえ何百万人が何かを訴えても、遠く離れた編集室で「こっちのほうが面白い。売れる」って判断されれば、一瞬で書き換えられてしまう。そんなふうにして、何百万人の願いが一瞬で消される。俺はそれを、ものすごく不道徳だと思うんだ。

アルバム公式インタビュー April 2003

そう。この楽曲のベースは、トム・ヨークが感じた「メディアの不道徳さ」がもとになっていたんですね。

ちなみに猫のストーリー自体は、トムが学生時代に書いた短編小説がもとになっているようなので、それをベースに新たな寓話として紡ぎ直したと見るのが良さそうです。メディアが「こっちのほうが面白い。売れる」と考え、世界を都合よく書き換えてしまう恐ろしい状況が、この楽曲のテーマだったのですね。

大衆化という病

さて、これで楽曲の意味がわかりました。でもまだ一つ疑問が残っています。

「Myxomatosis(感染症)」とは一体何だったのでしょうか?

だって、メディアが世界を編集しているだけであれば、メディア批判で済む話です。わざわざ「ぼくを施設に入れるか、さもなくば安楽死させてくれ!」なんて大げさすぎますし、「ぼくはミキサマトーシスに感染した!」なんて被害妄想らしくもありますよね。

そう。この楽曲は、メディア批判じゃないんです。

「Myxomatosis」は「大衆化」のメタファーなんです。

感染のはじまりはメディアだったかもしれない。あるいは政府の計略だったかもしれない。なにはともあれ、人類には「大衆化」という病が広まってしまったんです

それが「スター」を称賛する風潮を生み出し、当たり障りのない記事が「売れる」ような社会を作り、みなが真実に向き合わず、のらりくらりと生きる世の中を作り出してしまった。

主人公はその社会に抗っていたんです。でもいつの間にか飲み込まれ、正しいことが言えなくなって、大衆の一部に成り下がってしまった。だから「ぼくを施設に入れるか、さもなくば安楽死させてくれ」と叫んでいるんです。

もうひとつトムのインタビューを載せましょう。

あの曲の大部分は、権力が腐敗することについてでもある。
ある種の連中ってのは、人々がリーダーに求めようとする、そのエナジーそのものを糧にしてるんだよ。そう、皆、その指導者自体が、どんな指導者かは、特に気にしないんだ。
信じたくないことは信じないし、それがどんなに歪んでるかどうかなんて、少しも構わないんだ。

インタビュー トム・ヨーク 

たった4分の楽曲に、これほどのメッセージを染み渡らせる、レディオヘッドというバンドの恐ろしさを垣間見た気がします...。

すべての責任は自分たちにある

ちなみに、同アルバムの「There There」も全く同じ思想構造がありましたね。あちらの楽曲では、戦争を起こしたのはブッシュだが、その引き金は人類全体にある(ぼくらは歩く災害だ)というメッセージが盛り込まれていました。

同じく「2+2=5」も戦争をテーマにした楽曲ですが、政府批判をするのではなく、「ぼくらが注意を払っていなかったから!」と、責任所在を自分たち(市民側)に向けていました

そして「Myxomatosis」も同様です。社会の空虚化は、我々が意図せず自己蔓延させた病にかかっているからだ、とトムは考えているわけです。

これは決して、市民を吊るし上げろと言っているわけでも、世の中を悲観しているわけでもありません。

政府のせいとか、メディアが悪いとか、そんな愚痴を言っていても世界は変わらない。そうではなく、責任は市民である自分たちにあるのだから、もし世の中を正しくしたいなら、主権者として立ち上がればいいんだ、と言っているわけです。

とんでもない楽曲ですね...。ポップソングの枠を超えてます。

 

さて、以上で解説はおわりです。ぼくはこの曲は大好きで、Radioheadのオールタイムベスト10に入れてます。

『Hail to the Theif』のライブ盤も発売されましたね! 『Hail to the Theif』は2003年当時の、イラク戦争中の緊張感が反映されてて、聴くたびに当時にタイムスリップした気持ちになります。いまのウクライナ侵攻にどこか似てますね...。

みなさんはこの曲お好きですか?

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