The Smileのセカンド・アルバム『Wall Of Eyes』の4曲目「Under Our Pillows」(アンダー・アワ・ピローズ)の和訳と歌詞解説です。"under our pillows"(枕)の表現は「すばらしい新世界(Brave New World)」へのオマージュと見られる。
【歌詞】
Such delights wait under your pillows
Soft sung hymns from under your pillows
A slate wiped clean, a white loss of feeling
If you're ready and willing
Part of the sting, part of the giving
As the light bulbs are humming
Just allow it all to sink in
And you give yourself, give yourself freely
Nowadays everyone's for sharing
Nowadays everyone's for sharing
Don't let them take me!
Try to convert me
With a voice I can only see through
Nowadays everyone's for sharing (Doesn't have a heartbeat)
Nowadays everyone's for sharing (Doesn't have a heartbeat)
Episodes wiped clean, wiped clean, wiped clean
Episodes wiped clean, wiped clean
This is major league, make-believe, make-believe
This is major league, make-believe, make-believe
【和訳】
喜びが待っている 枕の下には
柔らかな賛美歌が 枕の下から聞こえる
拭い去られた石版 白く失われた感情
もし心の準備ができて 受け入れる気なら
刺痛の一部 施しの一部
その間も 電球がうなっている
ただ為すがままに すべてが沈みこむ
そしてきみも... きみも身を委ねる
近ごろは みんなで分け合おうとしてる
近ごろは みんなで分け合おうとしてる
ぼくをあいつらに 連れ去らせないでくれ!
ぼくを改心させてみなよ
ぼくにだけ見通せる その声でさ
近ごろは みんなで分け合おうとしてる(心臓が動いてない)
近ごろは みんなで分け合おうとしてる(心臓が動いてない)
出来事はきれいに 拭い去られ 拭い去られ 拭い去られ...
出来事はきれいに 拭い去られ 拭い去られ...
これは大リーグ 見せかけの 見せかけの...
これは大リーグ 見せかけの 見せかけの...
<用語>
- the light bulbs are humming
- 音響機器や照明器具から出る「ブーン」というノイズを「ハムノイズ」と言うそうです。ハナウタを歌っているわけではなさそう
- A is for B
- 「AはBに賛成している」の意味
【解説】
Under Our Pillows は何の比喩?
「Under Our Pillows(枕の下)」が何を示しているのか、気になりますよね。
これ、定かではないですが、小説『すばらしい新世界(Brave New World)』からの引用ではと推察されています。20世紀初頭のイギリス人作家、オルダス・ハクスリーが描いたディストピア小説です。
この小説の世界では、資本主義礼賛および、カースト制の植え付けのために、子供は幼少期から教育(洗脳)されます。その方法が「枕の下から絶え間なく録音を流し続ける」というものなのです。
「寝言教育」という方法を用いて、子供たちの心に繰り返し特定の考えを植え付けます。(中略)赤ちゃんの枕の下で、こんな録音が絶え間なく流れています。「アルファの子供たちは灰色の服を着ています。私たちよりもずっと一生懸命働かなければならないので、とても賢いです。私はベータであることを嬉しく思っています…」
引用元)「すばらしい新世界の要約」
(この録音を週に120回繰り返すことで完全に刷り込みが行われるようです...)
『すばらしい新世界』で描かれているものは?
どこかこの曲にマッチするところがありますよね。もしトムがこの小説からインスパイアされたとすれば、そこには何かしらシンパシーを感じるものがあったはずです。
少しだけ本作の紹介をしましょう。
1932年に刊行された『すばらしい新世界』は、ジョージ・オーウェルの『1984年』と並び、ディストピア小説の傑作とされています。『1984年』が1949年刊行なので、こちらの方が17年も前の発表なのですね。
そしてこの発表時期が非常に重要なのです。『1984』は第二次世界大戦終結後、冷戦真っ只中に書かれたため、その内容は「冷戦が行き着く未来」つまり、全体主義が支配するディストピアを描いたものとなっています。
一方で、『すばらしい新世界』も同じくディストピアを描いているのですが、その世界を支配しているのは全体主義ではありません。なんとその世界を支配しているのは、資本主義なのです。
この世界では、大量生産・大量消費が是とされており、キリスト教の神やイエス・キリストに代わって、T型フォードの大量生産で名を馳せた自動車王フォードが神(預言者)として崇められている。そのため、胸で十字を切るかわりにT字を切り、西暦に代わってT型フォードが発売された1908年を元年とした「フォード紀元」が採用されている。
一見すると荒唐無稽とも思えるこの小説。でもわたしたちはこの世界を笑うことはできるのでしょうか?
「枕の下から賛美歌が聞こえる」
いまわたしたちは、洗練された資本主義社会に生きています。そこに疑問を持つことは基本的にはありません。それこそ子供の時から、お金で何かを買うことは当たり前だと思ってますし、金を持つものが強い力を持つことも当然と思っています。
世界に豊かな地域もあれば、貧しい地域もあることを当たり前と思っていますし、神に仕事がうまくいくように祈ることはあれど、良き隣人になれるよう祈ることはありません。
拭い去られた石版 白く失われた感情(中略)
出来事はきれいに 拭い去られ...
『すばらしい新世界』では、市民が現代社会に疑問を持たないように、過去はすべて消去されています。ディストピア小説ではおなじみですね。昔がどうだったかなんて本当はわからないのです。私たちも幼少期から「社会ってこういうものだから」と言われて育ちましたもの。
喜びが待っている 枕の下には
柔らかな賛美歌が 枕の下から聞こえる
さて。果たして私たちは「枕の下から賛美歌を聞かされ」て育った子どもたちのことを、他人事だと言えるのでしょうか?
おわりに
とはいえ、全編にわたって小説の内容を描いているとは思えませんね。あくまで小説からは一節を拝借しただけで、詞の全体はいつものトムの社会批判だと感じます。何よりトムが楽しそうに歌っているので、それで良いのです。
今回はこのあたりにしておきましょう。さて、あなたはこの解釈どう感じましたか?
ご意見や応援コメントもお待ちしています!