深読み、Radiohead通信|歌詞和訳と曲の解釈

Radioheadの歌詞を和訳してます。トムの心境やバンドのエピソードも交えながら「こう聴くとめちゃ深くなるよ」といった独自解釈を添えてます。

【歌詞解説】Teleharmonic / The Smile - 現実と信仰の狭間で

The Smileのセカンド・アルバム『Wall Of Eyes』の2曲目「Teleharmonic」(テレ・ハーモニック)の和訳と歌詞解説です。

【歌詞】

Will I make the morning?
I don't know
Tied up in half-truth
Wanting payback, payback

Whining drones
On a cold sea
Ramming down doors, piling in
Caught in dragnets by fishermen
Wanting payback, payback

Where are you taking me?
Where are you taking me?

Somewhere you'll be there
So long
Somewhere you'll be there
So long
Soon you'll be there
So long
Soon you'll be there
So long

In all that fire and ice
In all that fire
In all that ice

Bury me
In the way out
In the past
Oh, Lord, how should I forget?
Hang up, pinned up
By hammer and nail

Somewhere you'll be there
So long
Somewhere you'll be there
So long
Soon you'll be there

In all that fire
In all that ice

Where are you taking me?
Where are you taking me?

※drones ... 「蜂」「(機械の)ドローン」という意味もあるが、人を指すときは「怠け者」の意味。
※caught by fishermen ... 「漁師に捕まる」の意味。新約聖書からの引用(後ほど解説)

※アルバム版にあわせて歌詞を一部修正しました

【和訳】

また朝を迎えられるのか?
僕にはわからない
半端な真実に 縛り付けられて
僕は見返りを 求めている

めそめそした 怠け者たちは
冷たい海の上で
ドアを突き破って 折り重なり
みんな漁師の網にかかっている
見返りを求めて

僕を どこへ連れて行くのか?
僕を どこへ連れて行くのか?

どこか あなたが行き着くところ
とても長く
どこか あなたが行き着くところ
とても長く
もうすぐ あなたはたどり着く
とても長く
もうすぐ あなたはたどり着く
とても長く

すべての火の中で、氷の中で
すべての火の中で
すべての氷の中で

僕を埋めてくれ
その出口に
その過去に
ああ主よ、どうやって忘れればいいんだ?
どうにもならず 打ち付けられて
ハンマーと釘で

どこか あなたが行き着くところ
とても長く
どこか あなたが行き着くところ
とても長く
もうすぐ あなたはたどり着く

すべての火の中に
すべての氷の中に

僕を どこへ連れて行くのか?
僕を どこへ連れて行くのか?

【解説】

The Smileのセカンド・アルバム『Wall Of Eyes』の中核をなす2曲目「Teleharmonic」(テレ・ハーモニック)をご紹介します。

本来の感情を、ありのまま表現し始めたトム

まず私が驚かされたのは、トムがここまでキリスト教的な表現を全面に打ち出した作品はいまだかつてなかったということです。もちろん彼が、宗教的な心理表現を歌詞に盛り込むことはままあります。ただ、今回のように直接的な新約聖書の引用や、キリストへの言及は初めてです。(受け手の解釈の余地を広げるために、あえて避けているのだと思っていました。)

この一点においても、トムの創作活動が今までとは異なる領域に踏み込んだと言えるでしょう。それでは歌詞を見ていきましょう。

"fishermen"は「救いへと導く人」

Whining drones(めそめそした 怠け者たちは)
Caught in dragnets by fishermen(漁師の網にかかる)

まず目につくのはここですね。この「人間を捕る漁師」という表現、日本人の私たちには馴染みがありませんが、西洋人にとっては宗教的に重要な意味を持つ言葉なのです。

キリスト教・新約聖書の中に、次のような一節があります。

シモン・ペトロは、イエスの足もとにひれ伏して、「主よ、わたしから離れてください。わたしは罪深い者なのです」と言った。(中略)
すると、イエスはシモンに言われた。「恐れることはない。今から後、あなたは人間をとる漁師になる。」

- ルカによる福音書5章1節~11節

元々漁師をしていたペトロ(後の十二使徒の一人)のところにやってきて、イエスが放った言葉です。もちろん「人間をとる」というのは一種の比喩で、「キリストの教えに人々を導く」という意味だったようです。このエピソードから、「漁師」はキリスト教において「宣教師」を指し、人々を救いに導く存在として描かれることとなりました。これを前提に歌詞を見てみましょう。

Whining drones(めそめそした 怠け者たちは)
On a cold sea(冷たい海の上で)
Ramming down doors(ドアを突き破り)
Piling in(折り重なって)
Caught in dragnets(みんな網にかかる)

怠け者たちは、ぷかぷかと海に浮かび、いつか来る救いを待っています。そして救いのドアが現れた途端、我先にと一斉に押し寄せるのです。何と傲慢で怠惰なことでしょう!

ここでの人々は、信仰を失った存在ではなく、信仰を「やめてしまった」存在だと思われます。本来の信仰とは、ただ救いを求めるだけではありません。神に救われると信じ、清く正しく生きることこそが信仰なのです。(私はキリスト教徒ではないですが、その大事さはわかります。)

しかし現代、多くの人々はそのことを忘れて、日々をのうのうと生きています。しかしトムのこの一節は、そんな彼らに対する皮肉でもあり、同時に「諦め」にも感じられます。まるで「自分もその一人になっていないか」と自問しているようです。どことなく「Karma Police」を彷彿とさせますね。

ハンマーと釘で打ち付けられて...

お次はこちら。

Oh, Lord (ああ、主よ)
Hung up, pinned up(打ち付けられて)

By hammer and nail(ハンマーと釘で)

「ハンマーと釘」で打ち付けられる…。これはもう、十字架に磔にされたイエス・キリストで間違いありません。「Oh, Lord」なんて言ってますし! トムがここまで直接的にキリスト教を表現するのは、Radiohead時代、ソロ時代通しても極めて珍しいです(※)

※近い表現は2014年のソロアルバム『Tomorrow's Modern Boxes』の「A Brain in a Bottle」でのみ

Bending Hectic」以降、明らかに開放感が増しましたね。アルバムの表題曲「Wall Of Eyes」のテーマも、自分自身の中にある「他者の目」のとの対峙でした。これはすなわち「周りの目なんて気にするなよ」というメッセージでした。自らも実践しているということでしょうか。やはりトムの心境にも、少なからず変化があったようです。

ただキリスト教への言及となると、複雑な感情を持つ人々も出てくるかもしれません。時代が時代ですから…。わたしたち日本人としては、わたしたちが「万物に神が宿る」と信じているように、彼らイギリス人に染み付いた思考のフレームとして捉えるのが良いのかもしれません。

特に次の一節なんて、まるで遠藤周作の「沈黙」のようではないですか。

Bury me(僕を埋めてくれ)
In the way out(その出口に)
In the past(その過去に)
Oh, Lord, how should I forget?(ああ主よ、どうすれば忘れられる?)

神を信じたいのに、疑いを持たざるを得なくなったとき、キリスト信者はその狭間で苦悩するのです。この「道」は、キリストが歩いた「苦難の道」なのか、主人公が歩んできた人生なのか。またはそれを重ね合わせたものなのか。トムの壮絶な人生を考えると、深みが違いますね。。

In all that fire and ice
すべての火の中で、すべての氷の中で

中盤から登場する「fire and ice(火と氷)」は、それぞれ「火=浄化」と「氷=試練」の暗喩だと思われます。上記の一節は「救いは試練の中にある」という解釈になるでしょうか。これは「Whining drones on a cold sea(海の上の怠け者たち)」を揶揄する一節とも合いますね。

さいごに。「Teleharmonic」の意味とは?

やはり気になるのは「Teleharmonic」(テレ・ハーモニック)の意味です。辞書にも乗っていないので、造語なのでしょうかね。「tele」は「遠く離れた」で、「harmonic」は「調和」「和声」の意味なので、直訳すると「遠く離れた調和」です。

この楽曲の宗教的側面から想像するに、神の国と人間の国という、決して交わることのない2つの世界の同時性を「ハーモニー」と表したのではないでしょうか。

 

以上で、歌詞解説は終わりです。
他にもいろいろな歌詞を解説しています。ぜひご覧ください。
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