深読み、Radiohead通信|歌詞和訳と曲の解釈

Radioheadの歌詞を和訳してます。トムの心境やバンドのエピソードも交えながら「こう聴くとめちゃ深くなるよ」といった独自解釈を添えてます。

【歌詞和訳】15 Step / Radiohead - 我々を振り回す最大のものは?

『In Rainbows』に収録された5拍子のダンスチューン。
本アルバムはグラミー賞で、最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム賞を受賞した。

【歌詞】

How come I end up where I started?
How come I end up where I went wrong?
Won't take my eyes off the ball again
You reel me out then you cut the string
How come I end up where I started?
How come I end up where I went wrong?
I won't take my eyes off the ball again
First you reel me out and then you cut the string

You used to be alright, what happened?
Did the cat get your tongue?
Did your string come undone?
One by one, one by one
It comes to us all, it's as soft as your pillow

You used to be alright, what happened?
Et cetera, et cetera
Fads for whatever (Yeah!)
Fifteen steps then a sheer drop

How come I end up where I started?
How come I end up where I went wrong?
Won't take my eyes off the ball again
You reel me out then you cut the string

 

【日本語訳】

どうして始まった場所で終わるの?
どうして最後に道を踏み外して終わる?
今度は絶対に目を離さないよ
あんたは俺を引き上げて、糸を切るんだ

どうして始まった場所で終わるんだ?
どうして最後に道を踏み外して終わる?
今度は絶対に目を離さない
あんたはまず俺を引き上げてから、糸を切るんだ

君は問題なかったのに、何があったの?
どうして黙っているんだい?
君の糸はほどけてしまったの?
1本ずつ、1本ずつ
それは俺たち全員にふりかかる
枕と同じくらいの柔らかさで

君は問題なかったのに、何があったの?
そのほかに、そのほかに…
色んなのものに一時的に熱狂して
15段のぼった先には、切り立った崖

どうして始まりの場所で終わるんだ?
どうして最後に道を踏み外して終わる?
今度は絶対に目を離さない
だってあんたは俺を引き上げて、糸を切るんだ


<主要単語>
・How Come:なにが原因で、どうして(≒Why)
・Cat got your tongue?:「どうして黙っているの?」という慣用句(主に子供に使う)
・One by one:1つずつ
・Fad:一時的な熱狂

 

【解説】

『In Rainbows』の1曲目を飾る変拍子のダンスチューン。このアルバムは2007年にバンド自身が、リスナーが価格を自由に決められる「It's up to you(あなた次第)」形式でインターネットリリースし、当時の音楽業界を震撼させました。(後にCD版でもリリースされ、UK・USともに1位を記録)

※このリリースの背景には、当時のレーベルEMIとの契約が影響していると言われています。前作『Hail to the Thief』で契約満了となった彼らは、過去の作品がレーベル側による一方的な扱いを受けていることに憤りを感じており、バンドというものが自らの作品をコントロールできる世界を望んでいたのです。

(参考:レディオヘッド、トムが異例の反論メッセージを公式サイトにUP

 

逆らうことができない憤り 

この曲のテーマは「振り回される者の憤り」です。

どうして始まった場所で終わるんだ?
どうして最後に道を踏み外して終わる?

(中略)

君は俺を引き上げて、糸を切るんだ

 

意図しない始まりと終わりを迎える、
魚のように引き上げられ、そしてまた海に返される、
そして自分はそれに逆らうことはできない、
(じっと注意を払うしかできない)
そんな理不尽な情景です。

彼らは「自分ではどうしようもない現象」をこの楽曲で表現しました。
(前述のEMIもその「振り回す者」の一つですね)

 

歌詞に散りばめられた暗喩

彼らは何に怒っているのでしょうか?
曲中では、それが何かはあえて明示していません。

でも実は様々な暗喩がちりばめられています。

君は問題なかったのに、何があったの?
どうして黙っているんだい?
君の糸はほどけてしまったの?
1本ずつ、1本ずつ

「糸」がほどけて、黙ってしまう人。

それは俺たち全員にふりかかる
枕と同じくらいの柔かさで

「全員に降りかかる」もの。

「枕のような柔らかさ」で訪れるもの。

15段のぼった先には、切り立った崖

そして「15 Step」とその先の崖(=絞首刑台の比喩)

これらはすべて「死」の暗喩なのです。

 

我々を振り回す最大のもの。それは・・・

この曲は、我々は何者かに振り回された結果「死」に追い込まれてしまう・・・とうたっているのでしょうか?

いえ、それではこの曲の半分しか表現できていません。

曲の始まりをもう一度見てみましょう。

どうして始まった場所で終わるの?
どうして最後に道を踏み外して終わる?
今度は絶対に目を離さないよ
あんたは俺を引き上げて、糸を切るんだ

どうでしょうか。「道を踏み外して終わる」と「糸を切る」はまさしく死の連想ですが、一方の「始まった場所」や「引き上げる」はどのような意味を持つでしょうか?
それに「今度は」という表現も。

歌詞に注釈を入れるとこのようになるでしょう。

あんたは(この世に)俺を引き上げて
糸を切る(また死の国に送り返す)んだ

おそらくこの曲には、輪廻転生的な死生観がベースとして存在するのでしょう。

彼らが描くこの世界では、何度でもやり直しを強要され、そして何度でも苦しみを与えられる。そうです、我々を振り回す最大のものは「生命」や「社会」そのものだったのです。

 

「この世に生まれ落ちてから、この世界に振り回されっぱなしだよ、チクショウ」

 

そんな不条理な世の中に対する憤りなのです。

 

だからどうしようという答えは、いつものように提示されません。
ただ、この事実を意識して生きるのと、のほほんと生きるのでは世界はまるで変わって見えるはずです。

彼らにとってのこの世界はまさに変拍子であり、
それはプラグを抜かれた僕らから見える景色でもあるのです。