深読み、Radiohead通信|歌詞和訳と曲の解釈

Radioheadの歌詞を和訳してます。トムの心境やバンドのエピソードも交えながら「こう聴くとめちゃ深くなるよ」といった独自解釈を添えてます。

【歌詞解説】Wall Of Eyes / The Smile - トム・ヨークの新たな幕開け

The Smile「Wall Of Eyes」(ウォール・オブ・アイズ)の和訳・解説。
ウクレレの軽快なリズムは、徐々にストリングスの波に飲み込まれていく。

【歌詞】

Down a peg or two we all go
Behind a wall of eyes
Of your own device
Is that still you?
With hollow eyes
Changed to black and white
Strap yourself in

(I try, but it don't go away)

Let us raise our glasses
to what we don't deserve
or what we're not worthy of
So rich and wide
To the grains of sand
Slipping through our hands

(I try, but it don't go away)
(One, two, three, four, five)

Is that still you? (One, two, three, four, five)
Through hollow eyes (One, two, three, four, five)
Changed to black and white (One, two, three, four, five)
So strap yourself in (One, two, three, four, five)

※take someone down a peg or two ... 「へこませる」「鼻をへし折る」を表す慣用句。英国の軍艦において、旗の木くぎ(peg)を低くすれば敬意が下がることに由来する。
※someone own device ... 「やりたいようにやる」「裁量をもつ」の意味

【和訳】

へこんじゃうんだ ぼくらはみな
きみが望んだ
瞳の壁の陰で

それでもきみなのかい?
虚ろな目を
白黒させてさ
自分を縛り付けてさ

(やってみたさ...だけど消えてくれないんだ...)

さあグラスを掲げよう
ぼくらにふさわしくない もののために
ぼくらにとって 価値なきもののために
豊かで 広大で
ぼくらの手をすり抜けていく
砂粒のために

(やってみたさ...だけど消えてくれないんだ...)
(1、2、3、4、5)

きみはまだそうなのかい?
虚ろな目を
白黒させてさ
そう 自分を縛り付けてさ!
(1、2、3、4、5)

【解説】

「Wall Of Eyes」! ついに来ましたね! アルバムの表題曲としては「The Bends」「Kid A」「The Eraser」以来4作目でしょうか。約20年ぶりですね。

前衛音楽の新しい幕開け

先日発表された「Bending Hectic」同様、アコースティックな楽器のみで構成されています。盟友ナイジェル・ゴッドリッチと離れたことで、電子音やコンピューターは封印したようですね。むしろコンピューターを使わなくても、こんな極上のアレンジができてしまうようになったというべきでしょうか。素晴らしすぎます!

一方で、良いところは良いまま。曲の展開に応じて、徐々に盛り上がるこの感じは、これぞトム・ヨークとも言うべき構成ですね。我々の期待を、はるかに超えてきたと言えるのではないでしょうか。

MVもまた秀逸でしたね。トムの疎外感がこの上なく表現されています。監督はおなじみポール・トーマス・アンダーソン。Radiohead時代の「Daydreaming」あたりからパートナーのような関係になってますね。

※監督はギターのジョニー・グリーンウッドにべた惚れしているようで、彼の映画は必ずジョニーに音楽を依頼している

Wall Of Eyesの意味

曲のタイトル「Wall Of Eyes(瞳の壁)」は、「Burn The Witch」にあるような「衆人環視」と見ることもできますが、どうもこの楽曲には、もっとパーソナルな世界観が見て取れます。

きっと「瞳の壁」は、自分自身の心の中にある「強迫観念」なのです。「きみ」というのも、もう一人の自分なのです。世の中をやっかみ、何もかもを否定するつまらない自分。何かを欲しているのに、素直になれない自分。(ニーチェ的に言うなら、ルサンチマンが最も近いでしょうか)

歌詞のストーリー

だから、歌詞のストーリーとしては、自分を自分で監視して/自分自身を縛り付けているキミ/それで本当にいいの?という流れで捉えるのが良いと思われます。

2番の「価値なきもののためにグラスを掲げよう」のくだりは、全くの皮肉ですよ。「ねえきみたち。本当に大事なものが何か、見失ってやしないかい」と。

前作のシングル「Bending Hectic」で、生きることに向き合う姿勢を説いたトム。この「Wall Of Eyes」でも変わらずシニカルに、でも確実に希望を示してくれました。

改めて、アルバム『Wall Of Eyes』が楽しみすぎますね! 同じ気持ちの方がいたら、ぜひコメントで盛り上がりましょう!

【こぼれ話】

トム・ヨークの楽曲は、アイデアから作品発表まで、非常に時間が空くことが多いです。構成がまとまらない、歌詞がまとまらない、アレンジが気に食わない。そんな理由で。(「True Love Waits」なんて20年かかりました)

この「Wall Of Eyes」もそんな曲の一つのようで、歌詞のほとんどは「The King of Limbs(2011年)」の時期に構想があったようです。

このアルバムのリリースに合わせて配布された新聞(ニュースペーパー)に、「Wall Of Eyes」の歌詞の断片が見て取れます。(見開き8ページ目を参照)

 

【8ページ目】→拡大する(別ページ)

 

【枠の部分を拡大したもの】

現在はこの「新聞」は、Radiohead公式サイトからダウンロードできます。いろいろ今後のヒントが散りばめられていて、楽しいですよ!

 

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