深読み、Radiohead通信|歌詞和訳と曲の解釈

Radiohead・トム・ヨーク・The Smileの歌詞を和訳してます。トムの心境やバンドのエピソードも交えながら「こう聴くとめちゃ深くなるよ」といった独自解釈を添えてます。

【歌詞和訳】Karma Police / Radiohead - 自分勝手な行いは自分に返ってくる

『OK Computer』のセカンドシングル。本国での人気も高い。
PVはトムの乗った車が一人の男性を追いかけるストーリー。
実は追いかけられている男性もトム自身を表していると言われている。

【歌詞】

Karma police
Arrest this man, he talks in maths
He buzzes like a fridge
He's like a detuned radio
Karma police, arrest this girl
Her Hitler hairdo is making me feel ill
And we have crashed her party

This is what you'll get
This is what you'll get
This is what you'll get
When you mess with us

Karma police
I've given all I can, it's not enough
I've given all I can, but we're still on the payroll

This is what you'll get
This is what you'll get
This is what you'll get
When you mess with us

For a minute there
I lost myself, I lost myself
Phew, for a minute there
I lost myself, I lost myself
For a minute there
I lost myself, I lost myself
Phew, for a minute there
I lost myself, I lost myself

 

 

【和訳】

カーマポリス
あの男を捕まえてくれよ
あいつは全部理詰めで話すんだ
冷蔵庫が唸るみたいにさ
まるで壊れたラジオみたいだ
カーマポリス
あの女を捕まえてくれよ
あいつのヒトラーみたいな髪型が
俺を不快にさせるんだ
だから俺たちはあいつのパーティを壊してやったんだ

これが代償さ
これが代償さ
これが俺たちにちょっかいを出した代償さ

カーマポリス
俺はできる限り捧げたよ
まだ足りないってのか?
俺はできる限り捧げたよ
なのにまだ俺たちはその名簿に載ってるのか?

これが代償さ
これが代償さ
これが俺たちにちょっかいを出した代償さ

すこしのあいだ
僕は我を忘れてた
僕は我を忘れてた

ああ、すこしのあいだ
僕は我を忘れてた
僕は我を忘れてた

【解説】

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『OK Computer』の中で、ひいては、Radioheadのキャリアの中でも最も人気の高い曲の1つです。あのOasisのノエル・ギャラガーでさえこの曲は好きだと言っていたそうです(彼はツンデレなんでしょうか・・)

Granted, some of the stuff on Amnesiac is brilliant. The Bends is the bollocks. Karma Police is mega. But they don't want people like me to like their music so they can go and fuck themselves.

- たしかにAmniesiacのいくつかの曲はスゲえよ。んでもThe Bendsはクソだ。けどKarma Policeはマジパねえ。でもあいつらは俺みたいなやつに曲を好きだなんて言われたくないんだろ?マジxx野郎どもが!

引用:Oasis Interviews Archive: May 2002

 

Karma(カルマ)の警察とは?

この曲は、レディオヘッドにしては比較的わかりやすい歌詞となっています。

まず『Karma Police』というのはトムの造語です。『Karma』は仏教用語の「カルマ(善い・悪い行いに対する報い)」のことで、日本人には理解しやすい概念だと思われます。

よく母親が子供に言う「よくないことをしたら自分に返ってくるの」や、誰かの身勝手な振る舞いに対して「あんなやつは将来ろくなことにならない」と後ろ指を指したりするアレです。

トムはその考えを一歩進めました。運命に任せるのではなく、現実世界で彼らに報いを与える存在がいてくれたらなあと。それが『Karma Police(カルマ警察)』なのです。

※『Karma Police』という造語は、『OK Computer』収録当時のバンドが皮肉めいたジョークとして使っていたそうです。サイドギターのエド・オブライエンがそれをタイトルにした曲を作ろうと言いだしたとのこと

 

怒りの向き先は?

まずトムは二人の人物を引き合いに出します。

カーマポリス
あの男を捕まえてくれよ
あいつは全部理詰めで話すんだ
(中略)
あの女を捕まえてくれよ
あいつのヒトラーみたいな髪型が
俺を不快にさせるんだ

「論理的な男性」と「きらびやかな女性」。ともにトムが嫌悪感を示す対象として描かれています。

「男」は数学には強いけれど人の心がわからない、きっとすぐ「はい論破」などと言ったりする人物なのでしょう。

「女」は綺麗に髪型を整えた女性。それだけなら何も不快に思うことはないので、きっと必要以上に見栄を張ったり、着飾ったりしている人物なのでしょう。

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出典:Radiohead – Karma Police Lyrics | Genius Lyrics

 

この2者に共通するのは「自分のことしか考えていない」という点です。彼らは自らを悪いと思っていないので、往々にしてこの世には、このような人物が幅を利かせていることが多いのです。

(レディオヘッドが「七つの大罪」を念頭に置いていたかはわかりませんが、おそらく前者の行く末は「強欲」(資本操作)であり、後者は「虚飾」なのでしょう)

 

世の中に対する怒り、対抗する主人公

トムは彼らに対する怒りをあらわにします。

だから俺たちはあいつのパーティを壊してやったんだ

これが俺たちにちょっかいを出した代償さ

トムはカーマポリスがやってくれないので、自分で行動に移しちゃいました。普通できないですよね。優先席を譲らない中学生にも注意できないのに、私にはこんな大それたことできません。

みんなからは拍手喝采。「よくやった!」という声も聞こえてきそうです。トムもきっとカーマポリスに褒められると思いました。でも・・・

カーマポリス
俺はできる限り捧げたよ
まだ足りないってのか?
俺はできる限り捧げたよ
なのにまだ俺たちはその名簿に載ってるのか?

なんとトム自身が逮捕名簿に載っているではありませんか!

 

怒りに任せる行為。それすら業のひとつ。

なんということでしょう。
良いことをしたはずなのに?

そうなのです。主人公は良いことをしたと思っていますが、この怒りこそ「自分のことしか考えていない」行為にほかならなかったのです。やられたからやり返す。それでは負の連鎖が続くだけです。争いは終わりません。

なので、2番のサビは1番と全く同じですが、実は視点が逆転しているのです。(「男」と「女」から主人公自身へ投げかけられるセリフになっています)

これが代償さ
これが代償さ
これが俺たちにちょっかいを出した代償さ

ゾワッとしますね。

 

怒りでは何も解決しない

そこで主人公は気付くんですね。

自分勝手な行いは自分に返ってくるということを。

すこしのあいだ
僕は我を忘れてた
僕は我を忘れてた

怒りのせいで主人公は我を忘れていたのです。カーマポリスは決して自分の味方ではないのです。自分は皆と同じく、等しく裁かれる罪人の一人でしかなかったのです。

PVでもこの点がうまく表現されています。

追いかけている自分自身が最後には火で炙られて裁かれるのです。追いかけられている男性の方が、実はトム自身だったと考えるのが自然なのかもしれません。

 

では、これから主人公はどうすればいいんでしょう。この怒りを、この悲しみを誰にぶつければいいんでしょう。

あてもないまま、主人公はただ呆然と立ち尽します。

すこしのあいだ
僕は我を忘れてた
僕は我を忘れてた

それが曲の最後のリフレインなのです。

結局この感情はどこに行くこともないのです。

 

きっと彼はまたカーマポリスに頼ることになるでしょう。

自分が裁かれると分かっていても・・・。

 

 <あわせて読むともっと深読み>

追いかけている自分自身が裁かれる側だったという、同じプロットの楽曲です

 

https://jellyhead.hateblo.jp/entry/2017/09/02/013616