深読み、Radiohead通信|歌詞和訳と曲の解釈

Radioheadの歌詞を和訳してます。トムの心境やバンドのエピソードも交えながら「こう聴くとめちゃ深くなるよ」といった独自解釈を添えてます。

【歌詞和訳】My Iron Lung / Radiohead - なあ、もうそろそろ自由にさせてくれよ

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「The Bends」に収録されたシングル曲。初期衝動をそのまま詰め込んだようなメチャクチャな展開は必聴。歌詞は前アルバムの「Creep」に対するアンチテーゼとして知られる

【日本語訳】

信頼は いつだって僕を裏切る
君らは毎日そうやってる
でも君らは悪気なんてないんだろ
それがひどく気に障るんだ
僕の脳は 僕が痛みを受けてると告げる
生命を維持する
酸素が足りないんだ
アイアン・ラングよ

僕らは 眠りにつくには若すぎる
喋るには皮肉的すぎる
頭に血が昇ってるんだ 君らに何が言える?
僕らは掻き続ける 延々と続くかゆみを
20世紀が生んだクズだよ
まったくありがたいね 
僕らのアイアン・ラングよ

精神科医たち 奴らは全てを知りたがる
ビル叔父さんや 僕が見た標識のことを
精神科医たち 奴らは全てを知りたがる
ビル叔父さんや 僕が見た標識のことを

青臭い親指でもしゃぶってな
トイレトレーニングされて黙ってさ
このパワーが尽きたら
きっと鼻歌でも歌うのさ

これだ! これが新曲さ!
どうだい前のとそっくりだろ!
まったく時間の無駄だよ
なあ アイアン・ラングよ

精神科医たち 奴らは全てを知りたがる
ビル叔父さんや 僕が見た標識のことを
精神科医たち 奴らは全てを知りたがる
ビル叔父さんや 僕が見た標識のことを

もし君が怯えているなら...
そう、怯えてても良いんだ...
もうそれで構わないのさ...
もし君が怯えているなら...
そう、怯えてても良いんだ...
もうそれで構わないのさァァァ!!

精神科医たち 奴らは全てを知りたがる
ビル叔父さんや 僕が見た標識のことを
精神科医たち 奴らは全てを知りたがる
ビル叔父さんや 僕が見た標識のことを


【歌詞】

Faith, you're driving me away
You do it every day
You don't mean it, but it hurts like hell
My brain says I'm receiving pain
A lack of oxygen
From my life support, my iron lung

We're too young to fall asleep
Too cynical to speak
We are losing it, can't you tell?
We scratch our eternal itch
Our twentieth century bitch
We are grateful for our iron lung

The headshrinkers, they want my everything
My uncle Bill, my Belisha beacon
The headshrinkers, they want my everything
My uncle Bill, my Belisha beacon

Suck, suck your teenage thumb
Toilet trained and dumb
When the power runs out, we'll just hum
This, this is our new song
Just like the last one
A total waste of time, my iron lung

The headshrinkers, they want my everything
My uncle Bill, my Belisha beacon
The headshrinkers, they want my everything
My uncle Bill, my Belisha beacon

And if you're frightened
You can be frightened
You can be, it's okay
And if you're frightened
You can be frightened
You can be, it's okay

The headshrinkers, they want my everything
My uncle Bill, my Belisha beacon
The headshrinkers, they want my everything
My uncle Bill, my Belisha beacon


なあ、もうそろそろ自由にさせてくれよ

「My Iron Lung」は、アルバム「Pablo Honey」(1993)と「The Bends」(1995)のちょうど中間、1994年にEPとしてリリースされました。当時のRadioheadは世界ツアーに駆り出されて順風満帆・・・でしたが、彼ら自身にとっては、大してやりたくもないツアーで、ほとんど満足していないアルバムの楽曲を演奏させ続けられていたのです。

もちろん、どこにいっても「Creep」を聴きたい人たちばかり。みんな「Creep」が始まるとキャーキャー言いながらステージに集まってくるのですが、次の曲が始まるとしれっと姿を消す。バンドにとってはそんな毎日の繰り返しです。歌詞の冒頭の「信頼」とはつまり「今日こそはCreep以外も聴いてくれるはず...」というトムの淡い期待なのです。そしてそれはいつも裏切られるのでした。

そして音楽番組に出ても、雑誌のインタビューを受けても、みんな聞くことは決まって同じです。

「Creep良いね!楽曲の主人公はトム、君自身だよね? 誰かに向けたラブレターなのかい?」

「君の歌詞はほんと暗いよね! 君はなんでいつも不機嫌そうで、卑屈なんだい?」

まだ、当時の英国ではインテリのロックミュージックが珍しかったので、メディアはこぞってトム・ヨークという人間を興味の対象に置きました。しかしそれは楽曲の良さやバンドの可能性に向けられたものではなく、まるで奇抜な一発芸人を見るようなものでした。

トムはだんだんと鬱屈した感情を膨らませていきます。

「Creepなんて作ったのがいけなかったんだよ・・・なあ、もう自由にしてくれよ・・。青臭い恋心なんてクソくらえさ・・頭空っぽのクソメディアどもめ・・何でもかんでも暗い性格に結びつけやがって・・」

そんな怒りを爆発させたのがこの楽曲なのです。

ただ皮肉なことに、このシングルは英国ではなんとか24位を獲得したものの、「Creep」が持て囃されたアメリカでは見向きもされませんでした(!)。そんな状況が、翌年にリリースされるアルバム「The Bends」に色濃く反映されることとなります...。

Iron Lung(アイアン・ラング)は詩的表現なんかじゃない

さて。ここからは歌詞を見ていきましょう。

まずはじめに問題です。
Iron Lung」(アイアンラング)ってなんだと思います?

日本語では「鉄の肺」ですよね。でも、なんか分かるようで、よく分からなくないですか? 何かの比喩なのでしょうか? 「何でも吸い込むタフな肺」みたいな意味の詩的表現でしょうか。(ミスチルの「友とコーヒーと嘘と胃袋」みたいな?)

ジャーン。
正解はこれ。これが「Iron Lung」だそうです。

見たことない医療機器です。1900年代半ばまで使われていた、肺に疾患を持つ人や、生まれつき肺が弱い赤ん坊が入る気圧調整装置だそうです。

1920年代に開発されたこの「鉄の肺」は、最初の人工呼吸器でした。患者の首から下を鉄の気密タンクに入れ、タンク内の空気を陰圧にして患者の胸部を広げることで息を吸わせ、タンク内の空気を平圧に戻し、胸郭の弾性によって肺がしぼむと患者は息を吐くという仕組みです。

引用)世界最後の「鉄の肺」を使う弁護士

The Bendsといい、当時のメンバーは医療用語にハマってたのでしょうね。(アルバムのジャケットも救命訓練用の人形ですし)

トムはこの曲で「アイアン・ラング」が自分を守ってくれていると歌います。

生命を維持する
酸素が足りないんだ
アイアン・ラングよ

それほどまでに息苦しい、もとい生き苦しかったんでしょうね。でもご覧の通り、アイアン・ラングは息が詰まりそうな円筒状の装置です。生きにくい世の中から守ってくれるけど、この中から出られない。そんなのに頼りたくなんてないですよ。

トムも本当はわかっています。むしろこんな装置に守ってもらってる、この状況自体がおかしいんだってことに。

僕らは掻き続ける 延々と続くかゆみを
20世紀が生んだクズだよ
まったくありがたいね 
僕らのアイアン・ラングよ

全てがくだらないとわかっていながら、延々と続くもどかしさが彼らを抑圧しているのです。「20世紀のクズ」とは自分たちの楽曲「Creep」であり、それを持て囃すファンたちであり、この風潮を作った社会に向けられた言葉なのです。

そして皮肉交じりに「あ〜あ。アイアン・ラングがあってよかった〜」と言うのです。

ついにプッツン来たトム・ヨーク

ただ彼らは怒っていると同時に、不安を抱えてもいました。「Creep」だけの一発屋で終わるんじゃないかと。

このパワーが尽きたら
きっと鼻歌でも歌うのさ

これだ! これが新曲さ!
どうだい前のとそっくりだろ!

「パワー」とはつまり「Creepのヒット」なんです。このブームが終わったら僕らは捨てられてしまうのか? それはバンドとして最も恐ろしいことです。だから「Creep」を超える新曲を作らないといけない。でもファンが求めているのは「Creepみたいな」曲です。レーベル(事務所)からもそう言われますし、ファンの反応は如実です。

もういろんな感情が入り混じってトムはプッツン来ちゃいます。「ああわかった。ギターのアルペジオとガガッてのが入った新曲な!どうだい、これでいいかい!?」

でもそりゃそうですよ。まだ「OK Computer」も「Kid A」も生まれてないんですから。不安と苛立ちが募るのは当然です。むしろそれを歌詞にしてライブで叫べるのがすごいんです。(普通ならトンデモ曲としてあしらわれるでしょう)

いまも人気曲として聴き続けられているのは高い楽曲レベルと演奏力があってこそなのです。(いまは売れてないバンドも、トムたちのように行くところまで行けば、いつか報われるかもしれませんね)

過去との決別、新たなる一歩

冒頭でも触れましたが、トムを理解してくれる人はなかなか現れてくれませんでした。メディアは彼を精神疾患者のように扱うし、楽曲の成り立ちや制作理由をあれこれと知りたがりました。それって普通じゃないですよね。芸術作品は、映画であれ音楽であれ絵画であれ、作品そのものを評価すべきなんです。作った人の精神状態を鑑定するなんて、失礼極まりない行為じゃないですか! でもトムはそういうピエロのようなアイコンにされていたのです。

精神科医たち 奴らは全てを知りたがる
ビル叔父さんや 僕が見た標識のことを

この一節は、そんな周囲に対する怒りなのです。
滅茶苦茶なギターノイズとシャウト。構成は「Creep」のようですが、色合いは全く違う。むしろ真逆とも言って良い内容です。

そしてこの歌ではもうひとつ大きな決断をしています。
それは「Creep」で思いを馳せた女の子との決別なのです。次の一節の「君」とは、きっとこの相手のことでしょう。

もし君が怯えているなら...
そう、怯えてても良いんだ...
もうそれで構わないのさ...
もし君が怯えているなら...
そう、怯えてても良いんだ...
もうそれで構わないのさァァァ!!

トムはいままで、ロックをやりながらも、どこか抜けきれないところがありました。いわゆる斜に構えた優等生タイプだったのですね。(だからこそあんな内気なラブソングを書いてしまったのですが)

バンドをやったことがある人は分かると思うのですが、いつか意中の女の子が振り向いてくれるんじゃないか、どこかでワンチャンあるんじゃないかと思っちゃってたわけです。トムといえども、まだデビュー当時の25歳の駆け出しでした。でもそんな日は待てども待てども来ないわけです。

ここは全くの想像ですが、きっと噂で耳にしたんじゃないでしょうか。その女の子はもう他の男と付き合ってるよとか、君のライブ見に来たけど、怖がって途中で出ちゃったよとか。

いずれにせよトムは気付いたんです。「ああ良い子ぶっててもしょうがないな」って。いまの息苦しさは、自分の甘えが生み出していたんだなって。これも想像ですが、バンド内でもこんな風に盛り上がったんじゃないでしょうか。

コリン「あはは!そりゃ根暗って言われるわw」
ジョニー「トムがやりたいようにやればいいじゃん」
エド「まあつまり
初期衝動における行動原理とは本来こうあるべきでさ。Creepへの期待を逆手に取った相対的価値観の揺らぎ...(以下略)」

まあ兎にも角にもレディオヘッドの5人の天才たちは、「Creep」のような曲でありながら「Creep」を超えるという難題を見事クリアしたわけです。ヒットこそしませんでしたが、自分たちの中で明確な折り合いをつけられたんじゃないでしょうか。翌年リリースの「The Bends」を聴けば、音楽的も精神的にも大きく成長しているのが見て取れます。

その時々の思いや感情を、素直に歌詞に表せるのは本当にすごいと思います。それもただ「世の中はクソだ」とか悪態をつくのではなく「最近息苦しいなあ、酸素が足りないんだよなあ」と茶目っ気たっぷりに表すんですよね。このインテリで根暗だけど、どこか憎めない性格が、レディオヘッドを成功に導いたんでしょう。

この作詞センスは作品を経るごとに極まっていきます。ぜひ他の楽曲も見てみてくださいね。